慌ただしかった土曜日のサロンも、ようやく客足が落ち着き始めた頃。
「お客さま。いかがですか?」
首元のケープを外し、短い髪を払いながら鏡越しに問いかける。
「……うわ。懐かし」
カットの間、静かに目を閉じていたハルが、自分の姿を確認して呟いた。
今回は、二人が出会った高校生の頃を再現したスタイル。
癖のないストレートヘアを薄く切り揃えた、短めのマッシュカット。
月に一度のペースで私の働くサロンにやってくるハルは、毎回「なんでもいい」と丸投げするため、好きなようにハサミを入れさせてもらっている。
爽やかに額を出したり、色っぽく流したり。
今回は、少し母性本能をくすぐる雰囲気にしてみた。
その姿に、ふと、初めて言葉を交わした日の記憶が蘇る。
それは、私の高校最後の文化祭だった。
私が所属していた茶道部は『江戸の茶屋』をテーマに出店していた。
女の子たちが『お茶屋の娘』として色鮮やかな着物に身を包む中、ちょうど『店の用心棒の武士』を担う番だった私は、一人だけ袴姿をしていた。
そこへ、男友達に連れられて面倒くさそうにやってきたのが、ハルだ。
なぜか男装姿の私に興味を持ち、何度か話しかけてきた。
私が考案した、串の一番下の団子に餡子が入っていればもう一本もらえる『下剋上団子』。
ハルは見事その当たりを引き当てた。
『下剋上成功、おめでとうっ!』
全力で祝福すると、彼は小さく吹き出した。
帰り際、なぜ一人だけ男装なのか尋ねられ、明日は着物を着ることを伝えると――。
『じゃあ。その写真、送ってください』
流れるようにスマホを取り出され、気づいたら連絡先を交換していた。
そこからハルとの日々は始まったのだ。



