卒業まで、好きでした。

春の風が、校門へ続く坂道に咲く桜を揺らしていた。

高校へ入学してまだ数日。

真新しい制服にも少しずつ慣れてきた頃だった。

今日は、福祉科の一年生と二年生を対象にした土曜講座の初日。

介護福祉士の資格取得に向けて行われる講座で、普段の授業とは少し違う特別な時間だった。

「緊張するね。」

隣を歩く親友が小さく笑う。

「うん。でも頑張ろう。」

私はそう返しながら、教室の扉を開けた。

教室には、同じ一年生だけでなく、二年生の先輩たちも集まっていた。

先生の説明が始まり、講座は静かに進んでいく。

初めて聞く専門用語が並び、私は何度も教科書とノートを見比べた。

「……どうしよう。」

分からない問題で手が止まる。

先生は別の生徒のところへ行っている。

誰かに聞きたい。

でも、初対面の先輩に話しかけるのは勇気がいる。

すると、少し離れた席から声がした。

「困ってる?」

顔を上げると、一人の先輩がこちらを見ていた。

優しそうな笑顔が印象的だった。

「はい……ここが分からなくて。」

私は問題集を差し出した。

先輩は私の隣まで来ると、ノートを開いて図を書きながら説明してくれた。

「ここはね、こう考えると分かりやすいよ。」

その説明は驚くほど分かりやすくて、さっきまで難しく感じていた問題が、すっと頭に入ってきた。

「あっ、そういうことなんですね!」

思わず笑顔になる。

「ありがとうございます。」

「どういたしまして。また分からないことがあったら聞いてね。」

そう言って、先輩は自分の席へ戻っていった。

その何気ない優しさが、なぜか心に残った。

講座が終わる頃には、少しだけ話せるようになっていた。

先輩は幼なじみと一緒に参加していて、私は親友と一緒。

帰る前、四人で少しだけ話をした。

「一年生?」

「はい。」

「土曜講座、大変だけど一緒に頑張ろう。」

その言葉が嬉しかった。

学校では学年が違うと、なかなか話す機会はない。

でも、この土曜講座だけは違った。

学年を越えて、一緒に学び、一緒に頑張る場所だった。

その日から私は、分からないことがあるたびに、その先輩へ質問するようになった。

先輩の名前は、敷戸純也。

穏やかで、いつも落ち着いていて、誰にでも優しい人だった。

あの日の私は、まだ知らない。

ただ「優しい先輩」だと思っていたその人が、高校生活の中で一番大切な存在になっていくことを。

桜が風に舞う春の日。

私の初恋は、誰にも気づかれないまま、静かに始まった。