四つ葉の栞

閉店まであと一時間。

美紗樹は、胸に一冊の本を抱えて本屋へ向かった。

本の間には、一輪の薔薇が描かれたしおりが挟まっている。

自動ドアが開く。

蒼はすぐに美紗樹に気づいた。

「いらっしゃい。」

美紗樹は小さくうなずく。

「先輩……少しだけ、お話できますか。」

蒼は静かにうなずき、休憩時間になると店の外へ出た。

夕焼けに染まる空の下。

二人は並んで立つ。

美紗樹は深く息を吸い、ゆっくりと手を動かし始めた。

『先輩。』

『あのしおり、ありがとうございました。』

『薔薇の花言葉、調べました。』

蒼は少し照れたように笑う。

美紗樹は震える手を止めず、続けた。

『私は、ずっと先輩が好きでした。』

『図書室で出会った日から、ずっと。』

『でも……。』

涙があふれ、手が少し震える。

『私は耳が聞こえにくくなりました。』

『これからもっと不便をかけるかもしれません。』

『だから……。』

一度目を閉じ、もう一度蒼を見つめる。

『あなたの負担には、なりたくありません。』

言い終えると、美紗樹はうつむいた。

返事を聞くのが怖かった。

すると、そっと両手が視界に入る。

蒼だった。

少しぎこちないけれど、一つひとつ丁寧に手話で伝える。

『そんなこと、ない。』

美紗樹は顔を上げる。

蒼は優しく笑いながら、続けた。

『僕は手話を覚えた。』

『それは、富田さんと話したかったから。』

『聞こえる、聞こえないじゃない。』

『君だから、一緒にいたい。』

美紗樹の涙が止まらなくなる。

蒼は少し照れくさそうに笑い、最後にゆっくりと手を動かした。

『好きです。』

『ずっと、あなただけでした。』

美紗樹も涙をぬぐい、笑顔になる。

そして、同じ手話を返した。

『好きです。』

二人は声ではなく、手で想いを伝え合った。

図書室で始まった四つ葉の栞。

本屋で交わしたたくさんの本。

そして、一輪の薔薇。

遠回りをした二人の恋は、ようやく同じページをめくり始めた。