四つ葉の栞

美紗樹に彼氏ができたことを知ってから、蒼は少しずつ距離を置くようになった。

「富田さんは、幸せなんだ。」

そう思い込むことで、自分の気持ちにふたをした。

数か月後。

蒼の隣には、一人の女性がいた。

書店の近くの大学に通う、清楚で穏やかな先輩。

周りから見れば、お似合いの二人だった。

その姿を偶然見かけた美紗樹は、胸が締めつけられた。

(先輩……彼女ができたんだ。)

笑わなきゃ。

そう思うのに、心だけが泣いていた。

「好きなのに……。」

その言葉は、誰にも聞こえないまま胸の奥へ沈んでいく。

先輩と後輩。

その関係を、自分から壊す勇気はなかった。

ある休日。

美紗樹は彼氏と本屋へ来ていた。

「私、この本読んでみたくて。」

そう言って棚へ向かう。

彼は店内を見回し、ため息をついた。

『本なんてつまらない。』

『早く帰ろう。』

『何がそんなに楽しいの?』

その手話を見た瞬間、美紗樹の表情が曇る。

この本屋は、ただの本屋じゃない。

蒼と出会い、本を好きになる喜びを分かち合い、たくさんの思い出が詰まった場所だった。

その大切な場所を、否定された気がした。

「ごめん……もう少しだけ。」

そう伝えても、彼は興味なさそうに店の外へ出ていってしまった。

美紗樹は一人、本棚の前でうつむいた。

涙がこぼれそうになる。

そのときだった。

「富田さん。」

優しい声。

顔を上げると、蒼が心配そうに立っていた。

「……大丈夫?」

その一言を聞いた瞬間、美紗樹の涙があふれた。

慌てて拭う。

「ごめんなさい……。」

蒼は何も聞かなかった。

ただ、美紗樹の隣に静かに立ち、一冊の本を手に取る。

「この本、読んでみない?」

いつかと同じように、穏やかに微笑んだ。

その笑顔が、今は少しだけ苦しかった。

お互い違う人の隣にいる。

それなのに、心だけは、あの日から何も変わっていなかった。