四つ葉の栞

聾学校へ転校してから、三か月が過ぎた。

新しい学校にも少しずつ慣れ、日本手話で笑い合える友達もできた。

それでも、帰り道に本屋の前を通るたび、美紗樹は足を止めてしまう。

「先輩、元気かな。」

そう思いながらも、なかなか店に入る勇気が出なかった。

ある土曜日。

久しぶりに本屋の自動ドアをくぐる。

店内はあの日と変わらず、本の香りに包まれていた。

新刊コーナーへ向かうと、見覚えのある後ろ姿が目に入る。

「……先輩。」

蒼だった。

制服ではなく、書店のエプロン姿。

以前より少し大人びた横顔だった。

蒼も美紗樹に気づき、優しく微笑む。

「富田さん、久しぶり。」

その口の動きを見た瞬間、美紗樹の胸が熱くなった。

「先輩……。」

一歩、近づこうとした、その時だった。

『美紗樹!』

後ろから手話で名前を呼ばれる。

振り返ると、聾学校の友達が笑顔で手を振っていた。

「こんなところで会うなんて!」

友達は楽しそうに手話で話し始める。

美紗樹も手話で返事をする。

蒼は少し離れた場所から、その様子を静かに見つめていた。

流れるような手話。

楽しそうな笑顔。

「新しい場所で、ちゃんと笑えているんだ。」

そう思うと安心した。

でも同時に、自分だけがその会話に入れないことを少し寂しく感じた。

友達が帰る頃には、蒼はレジへ戻っていた。

美紗樹はその背中を見つめる。

「……また来ます。」

小さく手を振る。

蒼も笑顔で手を振り返した。

「またね。」

その二文字だけが、二人の間を静かに通り過ぎていった。

本当はもっと話したかった。

「元気だった?」

「会いたかった。」

「手話、頑張ってるよ。」

伝えたい言葉は、胸の中に残ったまま。

今日もまた、二人の想いはページをめくることなく閉じられてしまった。