図書館の外は、思ったより静かだった。
風の音だけが、遠くで木を揺らしている。
そらは、白杖をゆっくりと動かしながら歩いていた。
以前よりも、少しだけ慎重な歩き方。
それでも、その足は迷っていなかった。
「……そらくん」
声がした瞬間、そらは顔を上げる。
もちろん、見えない。
けれど、その声だけでわかる。
「るみさん……?」
少しだけ、安心したような声だった。
るみは小さく息を整えてから、そっと近づく。
「こんにちは」
「……うん」
そらの声は、少しだけ掠れていた。
るみは一歩近づいて、ゆっくりと言う。
「大丈夫? ベンチまで、一緒に行こうか」
そらは一瞬、言葉を探すように止まる。
そして、小さくうなずいた。
「……お願い」
るみはそっと腕を差し出す。
「ここ」
そらの手が、ゆっくりとるみの腕に触れる。
その瞬間、ほんの少しだけ呼吸が重なる。
るみは気づかないふりをして、歩き出した。
歩幅を、そらに合わせて。
速くもなく、遅くもなく。
ただ、隣にいることだけを意識して。
ベンチが見えたとき、るみは小さく声をかける。
「ここだよ」
そらの手をそっと導いて、ベンチの背に触れさせる。
「ここに座って」
そらは静かに座った。
しばらく、何も言わなかった。
風だけが、二人の間を通り過ぎていく。
やがて、そらが小さく口を開いた。
「……会わないって言ったの、やっぱり無理だった」
るみの指が、少しだけ止まる。
そらは続ける。
「離れたほうがいいって思った」
「でも、違った」
声が少しだけ震える。
「離れるほど、君のことばっかり残る」
るみは、もう何も言えなかった。
ただ、その隣に立っているだけで精一杯だった。
そらは、ゆっくりと顔を上げる。
もちろん、見えてはいない。
それでも、まっすぐ向かってくる気配があった。
「るみさん」
名前を呼ばれる。
その一言で、胸がきしむ。
「やっぱり、離れたくない」
その言葉が落ちた瞬間。
るみの中で、何かがほどけた。
我慢していたものも、言えなかったものも、全部一緒に崩れる。
「……っ」
声にならないまま、涙がこぼれる。
そらは気づく。
すぐに気づいてしまう。
「泣かないで」
そらの声は、少しだけ慌てていた。
でも優しかった。
「泣いちゃうと、嫌だ」
るみは首を振る。
止めようとしても、止まらない。
「だって……」
言葉が途切れる。
そらは、小さく息を吸ってから続ける。
「いつもみたいに、笑ってて」
その言葉が、余計に胸に刺さる。
るみは涙の中で、かすかに笑おうとする。
でもうまくいかない。
それでも、そらは言う。
「その笑い方が、好きなんだよ」
静かに。
まっすぐに。
⸻
風が少し強くなる。
ベンチの上で、二人の距離は近いままなのに、
どこか不安定だった。
るみはようやく、小さく声を出す。
「……もう、離れない?」
そらは一瞬だけ黙る。
そして、はっきりと言った。
「離れない」
その言葉は、約束というより、決意だった。
風の音だけが、遠くで木を揺らしている。
そらは、白杖をゆっくりと動かしながら歩いていた。
以前よりも、少しだけ慎重な歩き方。
それでも、その足は迷っていなかった。
「……そらくん」
声がした瞬間、そらは顔を上げる。
もちろん、見えない。
けれど、その声だけでわかる。
「るみさん……?」
少しだけ、安心したような声だった。
るみは小さく息を整えてから、そっと近づく。
「こんにちは」
「……うん」
そらの声は、少しだけ掠れていた。
るみは一歩近づいて、ゆっくりと言う。
「大丈夫? ベンチまで、一緒に行こうか」
そらは一瞬、言葉を探すように止まる。
そして、小さくうなずいた。
「……お願い」
るみはそっと腕を差し出す。
「ここ」
そらの手が、ゆっくりとるみの腕に触れる。
その瞬間、ほんの少しだけ呼吸が重なる。
るみは気づかないふりをして、歩き出した。
歩幅を、そらに合わせて。
速くもなく、遅くもなく。
ただ、隣にいることだけを意識して。
ベンチが見えたとき、るみは小さく声をかける。
「ここだよ」
そらの手をそっと導いて、ベンチの背に触れさせる。
「ここに座って」
そらは静かに座った。
しばらく、何も言わなかった。
風だけが、二人の間を通り過ぎていく。
やがて、そらが小さく口を開いた。
「……会わないって言ったの、やっぱり無理だった」
るみの指が、少しだけ止まる。
そらは続ける。
「離れたほうがいいって思った」
「でも、違った」
声が少しだけ震える。
「離れるほど、君のことばっかり残る」
るみは、もう何も言えなかった。
ただ、その隣に立っているだけで精一杯だった。
そらは、ゆっくりと顔を上げる。
もちろん、見えてはいない。
それでも、まっすぐ向かってくる気配があった。
「るみさん」
名前を呼ばれる。
その一言で、胸がきしむ。
「やっぱり、離れたくない」
その言葉が落ちた瞬間。
るみの中で、何かがほどけた。
我慢していたものも、言えなかったものも、全部一緒に崩れる。
「……っ」
声にならないまま、涙がこぼれる。
そらは気づく。
すぐに気づいてしまう。
「泣かないで」
そらの声は、少しだけ慌てていた。
でも優しかった。
「泣いちゃうと、嫌だ」
るみは首を振る。
止めようとしても、止まらない。
「だって……」
言葉が途切れる。
そらは、小さく息を吸ってから続ける。
「いつもみたいに、笑ってて」
その言葉が、余計に胸に刺さる。
るみは涙の中で、かすかに笑おうとする。
でもうまくいかない。
それでも、そらは言う。
「その笑い方が、好きなんだよ」
静かに。
まっすぐに。
⸻
風が少し強くなる。
ベンチの上で、二人の距離は近いままなのに、
どこか不安定だった。
るみはようやく、小さく声を出す。
「……もう、離れない?」
そらは一瞬だけ黙る。
そして、はっきりと言った。
「離れない」
その言葉は、約束というより、決意だった。

