死の呼び声

 僕タープはグレートボアのステーキを食べていた。久しぶりに奮発した。美味い。今、冒険者ギルドの酒場兼食堂の窓際の席で幼馴染のミキを待っているところだ。

 ミキは五人で冒険者パーティを組んで調査に向かっている。無事に帰って来ることを祈っていた。今まで調査に失敗したことはなく、順調な冒険者のキャリアを積んできた女の子だ。幼馴染として僕は自慢だった。

「僕もせめてC級冒険者になっていたらなぁ。調査に同行できたのに」

 冒険者ギルドの発する指令には、C級以上の冒険者資格持ちが参加できる。
 C級からは中堅・上級と呼ばれるレベルである。僕はD級の冒険者資格だった。

 そこにブラッコスとシローキがミキと共に僕の食事している食堂へ入ってきた。

 ミキは凄く暗い顔をしていた。

「お帰り、ミキ。あれ? 残り二人のパーティ参加者は?」

『死んだぜ』とブラッコスが質問に対して答えた。

「ギルドの要請で後を追ったミズハさんとユアイちゃんは?」

『受付にも寄ったが、俺達は会っていない。山の中ですれ違ったようだ』

 僕は二人も死んでしまったという報告に物凄く気持ちが沈んだ。

(二人も上級冒険者が亡くなったのか……そんな過酷な調査だったなんて知らなかった)

「ミキもお疲れさま。無事で済んで良かったよ」

『うん……』

「お腹空いただろ、お腹に何か入れれば気分も少しは良くなると思う。食欲がないほどショックなら食べると吐くから止めておいた方が良いけど」

『あー、そうだな、俺達は止めて部屋に戻るわ、なぁシローキ』

『ブラッコス、少し疲れましたね。今日だけは早めに失礼させて頂こうかなと』

 ブラッコスは黒い服を着た戦闘・測敵専門のシーフ(盗賊)、シローキは聖職者の服を着たそのまんまの神官、二人とも長身で金髪のイケメン男性だ。

 ミキがタープの目を真っ直ぐに見ながら言葉を発する。

『タープ、お休みなさい』

「ああ、ゆっくり休んでね。ミキ、また明日、おやすみ」

『……』

 だが、彼女は無言だった。

『じゃ~な、タープ。しっかり飯食って強くなれよ』

『お疲れさま、タープ君。食べ過ぎは良くないですよ。ほどほどに』

 ブラッコスとシローキは全く逆のことを言いながら笑っていた。

 三人は冒険者ギルドの両開き扉を開けて外へ出て行った。
 宿はギルドが調査者のために用意してくれているので、僕の宿とは別だ。

 後姿を目で追っていると、ブラッコスがミキの腰に手を回したのが見えた。シローキはミキの左肩に手の平を置いていた。男性二人に挟まれ、真ん中を歩くミキ。

 ッツ!

 いつの間にミキと二人は距離が近くなったのだろう。
 タープは少しだけ嫉妬で不安になった。いや、少しだけでない。嫉妬心に染まっていた。

 しかし理性が勝ち、仲間が二人も死んだんだ、それを支え合ったのだとしたら信頼が生まれて距離感も近づいたのだろう、そう思った。でも、大切に片想いを続けているタープからすると、ミキが離れてしまった感じがして嫌な気持ちになるのであった。

 また、冒険者ギルドの調査に参加できないレベルでしかない自分に歯がゆさを感じていた。

(ミキが嫌がってなかった。ミキを取られたくないのに、僕は駄目な奴だ……)

 視線をテーブルに戻し、暗い顔になったタープはレシートを持って受付へ行って支払いを済ます。

『タープさん、大丈夫ですか?』

 ウェートレスのネコミミ女史がメガネをくいっと指で上げながら、心配そうに声を掛けた。

「ありがとう、相変わらずグレートボアのステーキは美味しかったです」

『こちらこそありがとうございます。またいらしてくださいね』

「はい、ご馳走様でした」

 ◇

 タープが食事を終えて宿に戻った頃、山のローリング探索をしてミキたち五人パーティを探して不発に終わったミズハとユアイが冒険者ギルドの窓口まで帰ってきた。

「「報告しますね」」

 二人は掻い摘んで報告を行った。

 調査パーティとはすれ違ったこと、行方不明者は確認できず血痕が山頂にあったこと、魔物に既に喰われたと推測できること、神殿が粉々に破壊されており神の存在は希薄になっていたこと。ただ魔物たちや邪悪な気配は無くなっている事。

『えっ? ギルドマスターを呼びます』

『祭ってあった神殿が粉々に砕け散っていたと?』

『街の守り神は既に霧散している可能性が高いって?』

『ミキさん、ブラッコスさん、シローキさんとは、すれ違わなかったと』

『五人のうち、三人は無事にギルドに帰って来ています』

『二名の上級冒険者が亡くなりました、ということでミキさん達との証言は一致しました』

 なぜか不穏な空気に包まれるミズハとユアイ、
 そして顔をしかめる冒険者ギルドのマスターと幹部職員たち。

 山頂からは一本道である。すれ違わない筈がない。

 異変の第一歩は、小さなところから既に始まっていた。