「聖女が逃げたぞ!」
「追え!絶対に捕らえろ!」
騎士や聖職者が血眼になって追いかけているのは、このエルヴマ国の聖女である私、シャノン・レンティス。
被っていたヴェールを投げ捨て、スカートを膝上まで捲し上げた聖女らしからぬ格好で森を駆け抜けている。
「冗談じゃない!捕まってたまるか!」
息が苦しくなろうと、額から流れる汗が目に沁みようと、飛び出た枝で肌を傷付け血が滲もうとも足は絶対に止めない。
ここで捕まったら最後、私に明るい未来はやって来ない。
──この日、私は今まで命を削って護って来た国を捨てた。
***
この国の周辺は魔物が多く、怪我人も多く出る。その為、聖女が周辺に結界を張って対応しているが、聖女と呼ばれていても、所詮は人間のか弱き女子。力だって無限に湧いてくるものでもない。そんなの少し考えれば分かるようなことなのに、この国の奴等は無責任な言葉で責め立て、こちらの意見も聞き入れず無理やり現場へ立たせた。
その結果、私は過労で倒れた。
満身創痍で聖力枯渇。身体が悲鳴をあげるように軋んでいた。三日三晩高熱にうなされ、このまま死ぬんではないかと不安がよぎったが、生き延びても苦しい思いをするのなら、いっその事死んだ方が楽になれるんじゃないかと思い直し、深い眠りに落ちた。
……すると夢を見た。それは前世と呼ばれる記憶。
前世の私は、俗に言うところの社畜だった。毎日毎日忙しくて、家に帰っても寝るばかりの生活。忙しさにかまけて食事もろくに取れない日が続いたある日、職場で倒れそのまま……
幸か不幸か、過労で倒れたのがトリガーとなり前世の記憶が呼び起こされたのだ。目が覚めた時には顔面蒼白で、全身汗に濡れていた。
夢か現実か……未だに曖昧だが、どうやら私は転生とやらをしたらしい。
そして真っ先に思ったのは、このままでは間違いなくまた過労で死ぬ。
神様がどういうつもりで私を転生させたのかは知らない。分かっているのは、この国はブラック以上のブラックって事だけ。
聖女だから人を助けるのが役目?国を護れ?
「はっ、ふざけるなよ」
鼻で笑いながら呟いた。
朝は暗い内に起こされ、体を清める為なんて名目で水行。体が温まらない内に礼拝堂に連れていかれ、朝の祈りをこなし、パッサパサのパンと冷めきったスープを胃に流し込むと、魔物が出た場所へ連れて行かれ浄化と結界の張り直し。それが終われば、救護施設へ行き怪我の手当。昼食なんて水が飲めたらラッキーだと思えるほど。
一日中連れ回され、ようやく部屋に戻れるのはいつも深夜近い。冷え切った夕食がテーブルに置かれているが、食べるよりも睡魔が勝つ事の方がしばしば。
改めて思い返すと、今日まで生きて来れたのが不思議なぐらい。
「前世の記憶がマシに思えてくる…」
頭を抱えながら大きく息を吐いた。
これだけ国に貢献してやってんのに、待遇が悪すぎる。部屋だって教会の一室で、安っぽい机に質素なベッドしかない。隙間風は入るしネズミだって出る。
その癖、教皇様は大きな屋敷を持ち、使用人も多数いて豪華な食事付き。
誰のおかげでその飯食えてんだって話。
「まあ、今までの私の行動にも問題があったと言えばあったけど」
今までの私は引っ込み思案で、あまり自分の意見を言おうとしなかった。『役目』だと言われればやらざるを得なかった。
私が聖女になったのは、両親の病気を治したのがきっかけだった。
「この子は凄い力を持っている!」
「ええ!これなら……!」
力を知った両親は、この教会へ私を商品として連れてきた。娘よりも目先の金に目が眩み、二束三文で売られた。
そんな経緯がある為に、私の発言力は弱い。聖女なんて肩書だけで、国と教会の懐を潤す為の道具でしかない。暴言と暴力で支配し、自分たちの言う事を聞く傀儡に仕立て上げられた。人としての人権なんて早々に切り捨てられた。
「それも今日まで」
大人しく言いなりになるシャノンはもういない。これからは私らしく生きて行く。贅沢は言わない。慎ましく生きられればいい。
「その為には……」
自分が自分である為に、私はこの国を捨てる事を決めた。
「追え!絶対に捕らえろ!」
騎士や聖職者が血眼になって追いかけているのは、このエルヴマ国の聖女である私、シャノン・レンティス。
被っていたヴェールを投げ捨て、スカートを膝上まで捲し上げた聖女らしからぬ格好で森を駆け抜けている。
「冗談じゃない!捕まってたまるか!」
息が苦しくなろうと、額から流れる汗が目に沁みようと、飛び出た枝で肌を傷付け血が滲もうとも足は絶対に止めない。
ここで捕まったら最後、私に明るい未来はやって来ない。
──この日、私は今まで命を削って護って来た国を捨てた。
***
この国の周辺は魔物が多く、怪我人も多く出る。その為、聖女が周辺に結界を張って対応しているが、聖女と呼ばれていても、所詮は人間のか弱き女子。力だって無限に湧いてくるものでもない。そんなの少し考えれば分かるようなことなのに、この国の奴等は無責任な言葉で責め立て、こちらの意見も聞き入れず無理やり現場へ立たせた。
その結果、私は過労で倒れた。
満身創痍で聖力枯渇。身体が悲鳴をあげるように軋んでいた。三日三晩高熱にうなされ、このまま死ぬんではないかと不安がよぎったが、生き延びても苦しい思いをするのなら、いっその事死んだ方が楽になれるんじゃないかと思い直し、深い眠りに落ちた。
……すると夢を見た。それは前世と呼ばれる記憶。
前世の私は、俗に言うところの社畜だった。毎日毎日忙しくて、家に帰っても寝るばかりの生活。忙しさにかまけて食事もろくに取れない日が続いたある日、職場で倒れそのまま……
幸か不幸か、過労で倒れたのがトリガーとなり前世の記憶が呼び起こされたのだ。目が覚めた時には顔面蒼白で、全身汗に濡れていた。
夢か現実か……未だに曖昧だが、どうやら私は転生とやらをしたらしい。
そして真っ先に思ったのは、このままでは間違いなくまた過労で死ぬ。
神様がどういうつもりで私を転生させたのかは知らない。分かっているのは、この国はブラック以上のブラックって事だけ。
聖女だから人を助けるのが役目?国を護れ?
「はっ、ふざけるなよ」
鼻で笑いながら呟いた。
朝は暗い内に起こされ、体を清める為なんて名目で水行。体が温まらない内に礼拝堂に連れていかれ、朝の祈りをこなし、パッサパサのパンと冷めきったスープを胃に流し込むと、魔物が出た場所へ連れて行かれ浄化と結界の張り直し。それが終われば、救護施設へ行き怪我の手当。昼食なんて水が飲めたらラッキーだと思えるほど。
一日中連れ回され、ようやく部屋に戻れるのはいつも深夜近い。冷え切った夕食がテーブルに置かれているが、食べるよりも睡魔が勝つ事の方がしばしば。
改めて思い返すと、今日まで生きて来れたのが不思議なぐらい。
「前世の記憶がマシに思えてくる…」
頭を抱えながら大きく息を吐いた。
これだけ国に貢献してやってんのに、待遇が悪すぎる。部屋だって教会の一室で、安っぽい机に質素なベッドしかない。隙間風は入るしネズミだって出る。
その癖、教皇様は大きな屋敷を持ち、使用人も多数いて豪華な食事付き。
誰のおかげでその飯食えてんだって話。
「まあ、今までの私の行動にも問題があったと言えばあったけど」
今までの私は引っ込み思案で、あまり自分の意見を言おうとしなかった。『役目』だと言われればやらざるを得なかった。
私が聖女になったのは、両親の病気を治したのがきっかけだった。
「この子は凄い力を持っている!」
「ええ!これなら……!」
力を知った両親は、この教会へ私を商品として連れてきた。娘よりも目先の金に目が眩み、二束三文で売られた。
そんな経緯がある為に、私の発言力は弱い。聖女なんて肩書だけで、国と教会の懐を潤す為の道具でしかない。暴言と暴力で支配し、自分たちの言う事を聞く傀儡に仕立て上げられた。人としての人権なんて早々に切り捨てられた。
「それも今日まで」
大人しく言いなりになるシャノンはもういない。これからは私らしく生きて行く。贅沢は言わない。慎ましく生きられればいい。
「その為には……」
自分が自分である為に、私はこの国を捨てる事を決めた。



