「こんな場所では嫌です……」
「いいや、むしろ相応しいよ。君は私の所有物になるのだから……愛してるよエリザベート。一方的なものでも構わない、君を一生囲うと誓う」
恍惚とした面持ちで告げるテオの顔が首筋に埋められる。
そして薄い皮膚が吸い上げられた。
少しでも時間を作ろうとしたが無駄だった。
それどころか逆効果だったのだ。これでは自力で逃げ出すどころではない。
こんなことならベリルに気持ちを伝えていれば……胸の内でそんなことすら感じ始めていた。
王都では何度も緊迫した場面を切り抜けてきただけに自惚れていのだろう。
罰が当たった。こんなことで……――
テオの執着を甘く見過ぎた。
強硬手段に出るわけがないと考えたのは、貴族としての自分を捨てきれなかったのかもしれない。
ふと、平民は家畜だと言った父の言葉を思い出した。
あれと似た思想を持つのなら、強硬手段などではないのかもしれない。
エリザベートは家畜で、それと同然の人間をどこで犯そうが、体裁など気遣う必要はないのだ。
テオの生温い吐息が耳許に伝いエリザベートは瞼を固く閉じた。
――気持ち悪い。
抱きしめてくるテオの身体を払いのけようとしたがその腕は固かった。
明らかにベリルの時とは違う。
最初に辺境に辿り着いた時に抱き止められた腕は優しかった。
頬に薄く涙が伝い、濡らす。
もう一度会えたなら包み隠さず向き合いたい。
自分もベリルと同じように、忘れた日はなかったのだと告げたい。
溢れてゆく涙が止まらず、諦めてかけていたその時、――銃声が二度響いた。
「は、……何故だ……」
エリザベートを縫い止めていたテオの身体が硬直し、それから静かに首をもたげた。
「おい、何があった?」
テオが大声で問いかけたが返事はない。
吸い上げられた首筋の淡い痛みを感じながらエリザベートは困惑していた。
「……テオ・ステイツ子爵令息だな」
低い声は静かだったが、明らかに怒気を孕んで重く響く。
そこには肩で息をつくベリルの姿があった。
「てめぇは辺境伯の許可なく監視下の人間に接触した。連行させてもらう。死にたくなけりゃ大人しくしろ」
その後ろを数頭の馬が駆けつける。
エリザベートは身を起こしたものの座り込んだまま動けなかった。
ベリルと一瞬だけ視線がかち合い、鋭い瞳がエリザベートを射抜き思わず肩が跳ねた。
それからベリルはテオを仲間らしき人間に引き渡したあと、エリザベートの元へ歩み寄り、荷台へと上がって手を差し出す。
「帰るぞ」
短く告げられた言葉に張り詰めていた心は解けて、手を取る代わりに気付けば抱きついていた。
「遅くなって悪かった」
震える身体をベリルはただ静かに支える。
昔から寄り添ってくれる人だった。
エリザベートは温かな胸の中で首振り、瞼を閉じて紡ぐ。
「迎えに来てくれて嬉しかったわ……本当に、うれしかった。あなたに会いたかったから……」
ベリルは微かに指を曲げて、肩を抱き返す。
その手が震えているのを感じて顔を上げると安堵の色が浮かぶベリルの瞳と重なった。
そしてようやく、エリザベートは素直に自分の心を認めた。
罪は消えなくとも、この人と幸せになりたいのだと。
「いいや、むしろ相応しいよ。君は私の所有物になるのだから……愛してるよエリザベート。一方的なものでも構わない、君を一生囲うと誓う」
恍惚とした面持ちで告げるテオの顔が首筋に埋められる。
そして薄い皮膚が吸い上げられた。
少しでも時間を作ろうとしたが無駄だった。
それどころか逆効果だったのだ。これでは自力で逃げ出すどころではない。
こんなことならベリルに気持ちを伝えていれば……胸の内でそんなことすら感じ始めていた。
王都では何度も緊迫した場面を切り抜けてきただけに自惚れていのだろう。
罰が当たった。こんなことで……――
テオの執着を甘く見過ぎた。
強硬手段に出るわけがないと考えたのは、貴族としての自分を捨てきれなかったのかもしれない。
ふと、平民は家畜だと言った父の言葉を思い出した。
あれと似た思想を持つのなら、強硬手段などではないのかもしれない。
エリザベートは家畜で、それと同然の人間をどこで犯そうが、体裁など気遣う必要はないのだ。
テオの生温い吐息が耳許に伝いエリザベートは瞼を固く閉じた。
――気持ち悪い。
抱きしめてくるテオの身体を払いのけようとしたがその腕は固かった。
明らかにベリルの時とは違う。
最初に辺境に辿り着いた時に抱き止められた腕は優しかった。
頬に薄く涙が伝い、濡らす。
もう一度会えたなら包み隠さず向き合いたい。
自分もベリルと同じように、忘れた日はなかったのだと告げたい。
溢れてゆく涙が止まらず、諦めてかけていたその時、――銃声が二度響いた。
「は、……何故だ……」
エリザベートを縫い止めていたテオの身体が硬直し、それから静かに首をもたげた。
「おい、何があった?」
テオが大声で問いかけたが返事はない。
吸い上げられた首筋の淡い痛みを感じながらエリザベートは困惑していた。
「……テオ・ステイツ子爵令息だな」
低い声は静かだったが、明らかに怒気を孕んで重く響く。
そこには肩で息をつくベリルの姿があった。
「てめぇは辺境伯の許可なく監視下の人間に接触した。連行させてもらう。死にたくなけりゃ大人しくしろ」
その後ろを数頭の馬が駆けつける。
エリザベートは身を起こしたものの座り込んだまま動けなかった。
ベリルと一瞬だけ視線がかち合い、鋭い瞳がエリザベートを射抜き思わず肩が跳ねた。
それからベリルはテオを仲間らしき人間に引き渡したあと、エリザベートの元へ歩み寄り、荷台へと上がって手を差し出す。
「帰るぞ」
短く告げられた言葉に張り詰めていた心は解けて、手を取る代わりに気付けば抱きついていた。
「遅くなって悪かった」
震える身体をベリルはただ静かに支える。
昔から寄り添ってくれる人だった。
エリザベートは温かな胸の中で首振り、瞼を閉じて紡ぐ。
「迎えに来てくれて嬉しかったわ……本当に、うれしかった。あなたに会いたかったから……」
ベリルは微かに指を曲げて、肩を抱き返す。
その手が震えているのを感じて顔を上げると安堵の色が浮かぶベリルの瞳と重なった。
そしてようやく、エリザベートは素直に自分の心を認めた。
罪は消えなくとも、この人と幸せになりたいのだと。



