追放先で再会した初恋の男は、罪深い私を愛し続ける 〜断罪令嬢エリザベートの初恋回帰〜

頭と身体の痛みのあと、甘い香りが鼻腔に広がって、そこから深い眠りについていた。

夢なのか、懐かしい記憶の中でゆらゆらと微睡み、ベリルの声が聞こえた気がする。
しかし次第に鮮明になってゆく景色と共に現れたのは深いオリーブの髪に赤い瞳。

馬車の中なのか振動を感じ、荷馬車の中だというのが分かった。

「ーーやぁ、目覚めたね。手荒な真似をしてすまなかった。私はテオ・ステイツ。一度君と踊った事があるけど覚えてるかな」

興奮気味に告げる男の姿は、彼が言うように以前一度だけパーティーで踊った男だった。

身を捩ったが身体は動かない。
手足だけでなく丁寧に腕も動かぬよう念入りに縄で巻かれているのは攫いに来た男を瓶で殴ったからだろう。

「っ……なぜこのような事を……子爵令息であるあなたが……婚約者の方が心配されるのでは?」

唯一自由になっていた口元にテオの指が這って、エリザベートは顔を背けながら尋ねた。

テオは以前から顔を合わせればダンスを申し込んで来ており、角が立たないよう一度だけ応じた記憶がある。

そしてステイツ子爵家といえば聖女信仰が特に厚い歴史ある名家。と言うのは建前だが、財のある家との縁談を繋ぐことに長け、持参金で財を成していると噂される家だ。

子爵令息であるテオもそれを求められたはずだが、しかし嫡男にも関わらずエリザベートに執心だった。

今まで忘れていたのはエリザベートの記憶にあるのが別の令嬢と婚約が決まり結婚を控えているという情報が最後だったからだ。

故に、なぜあなたが、というのが最初に落ちてきた疑問である。

「婚約なら破棄したさ。君が断罪され居ても立っても居られなかった」
「っ……」

さも当然といったかたちで婚約破棄と言葉が響き、エリザベートは刮目する。

「私はちゃんと見抜いているから大丈夫だ。エリザベート、君は無実だろう?美しく清らかな君が妹を陥れただなんておかしい」