短編集〜甘々、逆ハー、無自覚、美少女、ヤンデレ、独占欲、クール、いじめ、溺愛、嫉妬〜

 僕の名前は、ランポ。
 ある出来事をきっかけに、
 大切な仲間たちとは離ればなれになってしまった。

 理由はある。
 でも、今はまだ誰にも話したくない。

 だから僕は、知り合いが一人もいない場所へ行きたいと思っていた。

 誰にも会いたくなかった。

 そんなある日のことだった。

 帰り道を歩いていると、
 突然後ろから口をふさがれる。
「――っ!」
 抵抗する間もなく、
 意識は闇へ沈んだ。

 目を覚ますと、
 そこは真っ暗な洞窟だった。

 湿った空気と冷たい岩肌。

 どこまでも続く闇しか見えない。

「目が覚めたか」
 低い声に振り向く。

 そこには、褐色の肌に無精ひげを生やした大柄な男が立っていた。

 鋭い目つきで怖そうなのに、
 どこか懐かしい気もする。
「俺はヤンスだ」
 その名前にも、その顔にも覚えはない。

 なのに、不思議と初対面とは思えなかった。

 次の瞬間だった。
「……ずっと会いたかった」
 ヤンスは僕を強く抱き寄せた。
 あまりの突然さに、
 僕は言葉を失う。

 話を聞くと、
 ヤンスは山賊の頭領だった。

 しかも僕を仲間ではなく、
 大切な存在として扱っているらしい。

 夜になると同じ寝床で眠り、
 ヤンスは僕を抱きしめたまま離そうとしない。

「ヤンスさん……苦しい……」

 本人に悪気はないようだが、
 僕にとっては落ち着かない毎日だった。

 これ、完全に誘拐だよね。

 体は縛られていない。
 牢屋に閉じ込められているわけでもない。
 逃げるなら今しかない。

 そう決めた僕は、
 山賊たちが眠った深夜、こっそり洞窟を抜け出した。

 しかし、どれだけ走っても出口は見つからない。

 同じような岩場ばかりが続き、
 自分がどこにいるのかも分からなくなる。

「どうした?」
 突然、松明を持った小柄な男が現れた。

 僕はとっさに言い訳を考える。
「その……洞窟を見て回っていただけです」
「ここは山賊のアジトだぞ」
「山賊のアジトって……どこの山?」
 男はきょとんとした顔をした。
「山は一つしかないだろ」
「え?」
「……お前、もしかして異世界から来たのか?」
「異世界?」
「この世界には山は一つしかない。
それを知らないなら、この世界の人間じゃない」
 何を言っているのか分からない。
 異世界なんて、おとぎ話の中だけの存在だと思っていた。

「僕は帰りたい」
 思わず本音が漏れる。

「それならヤンスに頼め。」
 男がため息をついた、その時
「帰らせねえ」
 聞き覚えのある低い声が響いた。
 ヤンスだった。
「どうして帰らせてくれないんですか?」
「お前とは前世で約束した」
 真っすぐな目でヤンスは言う。
「前世で俺たちは一緒に生きると誓った」
「そんなの覚えてません」
「俺は覚えている。
匂いで分かる」
「匂いで前世なんて分かるわけないでしょう!」
 思わず言い返す。

 犬だってそんなことはできないはずだ。

 それでもヤンスは首を振らなかった。
「お前はランポだ。
間違えるはずがない。」
 その言葉には、
 不思議なくらい迷いがなかった。

「それでも僕は帰りたい」
 そう言うと、ヤンスは静かに尋ねた。
「帰る場所が、本当にあるのか?」
「……え?」
「忘れたのか。
お前は家出をしていた。」

 その言葉を聞いた瞬間、
 記憶がよみがえる。
 そうだ。
 僕は自分の意思で家を飛び出したんだ。
 だから、帰る家なんて最初からなかった。

 しばらく黙っていた僕は、
 小さく息をつく。
「……今は、ここにいるしかないみたいですね」

 その一言を聞いたヤンスは、
 嬉しそうに笑い、
 再び僕を抱きしめた。

 こうして僕は、
 異世界の山賊たちと奇妙な共同生活を送ることになった。
 前世の因縁を抱えたまま――。