桜が散ってから初めて迎える休日。
朝、窓から差し込む光で目が覚めた。
制服ではなく、私服に袖を通す。
鏡の前で何度も髪を整え、
結び直し、
またほどく。
「……落ち着かないわね」
「だな。
ベンデッタは、あんなやつ信用していいと思ってるのか?」
私は静かに頷いた。
「幼なじみだから」
「最後に会ったのは?」
「幼稚園の頃」
「それなら、尚更信用に値しない。
幼稚園なら、
人柄が変わる可能性もある」
「そうね。
それに、彼の能力を問い詰めないと」
駅前、
アユト君は約束の十分後に来た。
白いシャツに黒いカーディガン。
白シャツに「バカ見参」という文字があって、
正直に言うと、
ダサかった。
「待った?」
「それ、早く来た人が言う台詞」
「じゃあ行こう」
「うん」
電車に揺られながらどうでもいい話をする。
「俺、高所恐怖症でさ、
この電車まじでこわい。
すごく揺れるし」
「それじゃあ、なぜ乗ろうと思ったの?」
「なんとなく。
と言うか、知らなかったし。
緊急停止ボタンとか、
押していい?」
「そんなんで押すな」
「先が思いやられるな」
私の鞄に入っていた、ペングウィーノ
が呟いた。
「俺、無理かも。
ペンギンのぬいぐるみが喋るという幻聴まで、
聞こえて来た」
「この人、まじで何なの?」
水族館、
青い光が天井から差し込む。
大きな水槽の中を魚たちが群れで泳いでいる。
「マジで普通だわ」
「初めて?」
「さっきの発言でいう、
台詞じゃないよね」
「そうなんだ。
ごめん、知らなくて」
「呆れるって、
このことを言うのね」
巨大なエイ。
ゆったり泳ぐウミガメ。
色鮮やかな熱帯魚。
全部が綺麗ということにしておこう。
「見て」
アユト君が指差す。
イルカが勢いよく跳ねる。
水しぶきが光に反射して虹になる。
「笑った」
「笑ってないよね」
「そういうことにしときたくて」
「……さっきから、何なの?」
「事実をねじ曲げたくて」
「もうだめだ。
私は、君を理解できそうにない」
ペンギンエリア。
何羽ものペンギンが歩いている。
よちよちと。
時々転びそうになりながら。
一羽が水へ飛び込んだ。
これ、ペングウィーノじゃない?
後で、からかう材料にしておこう。
「泳ぐの上手いよな」
「泳げないペンギンよりは、
いいかもね」
ペングウィーノも、
こんな風に泳ぐのだろうか。
絶対に見せてくれないけれど。
アユト君は売店へ向かった。
しばらくして戻ってくる。
「これ」
ペンギンのキーホルダーだった。
ペングウィーノそっくりだった
「記念」
「一応、受け取っておくわ。
誰かさんを、からかいたいから」
昼食、
二人でハンバーガーを食べる。
ポテトを一本取ろうとして、
「あ」
同時だった。
指先が触れる。
「タイミング悪」
「俺、そういう男だから」
私は、ため息しかつけなかった。
夕方、
海が見えるベンチ。
夕日がゆっくり沈んでいく。
波の音だけが聞こえる。
私は静かに口を開く。
「……聞いてもいい?」
「うん」
「君の能力」
アユト君は私を見た。
「歴史を見る能力」
「そう」
「どういう能力なの?」
彼は海を見つめながら話し始めた。
「人間の歴史が見える」
「全部?」
「全部じゃない」
「重要だった出来事だけ」
「その人の人生を形作った場面。
「強い感情、
「後悔、
「幸せ、
「絶望、
そういうものが流れ込んでくる」
私は、ため息が出る。
「それで?」
「鈴木さんを初めて見た時、わかった気がした」
アユト君は静かに続けた。
「……全部?」
「多分」
「……怖くないの?」
「何が?」
「私は普通じゃない」
「言われてみたら、そうかも」
「否定しないんだね」
家へ帰る。
こういう日も、悪くないかもしれないな。
朝、窓から差し込む光で目が覚めた。
制服ではなく、私服に袖を通す。
鏡の前で何度も髪を整え、
結び直し、
またほどく。
「……落ち着かないわね」
「だな。
ベンデッタは、あんなやつ信用していいと思ってるのか?」
私は静かに頷いた。
「幼なじみだから」
「最後に会ったのは?」
「幼稚園の頃」
「それなら、尚更信用に値しない。
幼稚園なら、
人柄が変わる可能性もある」
「そうね。
それに、彼の能力を問い詰めないと」
駅前、
アユト君は約束の十分後に来た。
白いシャツに黒いカーディガン。
白シャツに「バカ見参」という文字があって、
正直に言うと、
ダサかった。
「待った?」
「それ、早く来た人が言う台詞」
「じゃあ行こう」
「うん」
電車に揺られながらどうでもいい話をする。
「俺、高所恐怖症でさ、
この電車まじでこわい。
すごく揺れるし」
「それじゃあ、なぜ乗ろうと思ったの?」
「なんとなく。
と言うか、知らなかったし。
緊急停止ボタンとか、
押していい?」
「そんなんで押すな」
「先が思いやられるな」
私の鞄に入っていた、ペングウィーノ
が呟いた。
「俺、無理かも。
ペンギンのぬいぐるみが喋るという幻聴まで、
聞こえて来た」
「この人、まじで何なの?」
水族館、
青い光が天井から差し込む。
大きな水槽の中を魚たちが群れで泳いでいる。
「マジで普通だわ」
「初めて?」
「さっきの発言でいう、
台詞じゃないよね」
「そうなんだ。
ごめん、知らなくて」
「呆れるって、
このことを言うのね」
巨大なエイ。
ゆったり泳ぐウミガメ。
色鮮やかな熱帯魚。
全部が綺麗ということにしておこう。
「見て」
アユト君が指差す。
イルカが勢いよく跳ねる。
水しぶきが光に反射して虹になる。
「笑った」
「笑ってないよね」
「そういうことにしときたくて」
「……さっきから、何なの?」
「事実をねじ曲げたくて」
「もうだめだ。
私は、君を理解できそうにない」
ペンギンエリア。
何羽ものペンギンが歩いている。
よちよちと。
時々転びそうになりながら。
一羽が水へ飛び込んだ。
これ、ペングウィーノじゃない?
後で、からかう材料にしておこう。
「泳ぐの上手いよな」
「泳げないペンギンよりは、
いいかもね」
ペングウィーノも、
こんな風に泳ぐのだろうか。
絶対に見せてくれないけれど。
アユト君は売店へ向かった。
しばらくして戻ってくる。
「これ」
ペンギンのキーホルダーだった。
ペングウィーノそっくりだった
「記念」
「一応、受け取っておくわ。
誰かさんを、からかいたいから」
昼食、
二人でハンバーガーを食べる。
ポテトを一本取ろうとして、
「あ」
同時だった。
指先が触れる。
「タイミング悪」
「俺、そういう男だから」
私は、ため息しかつけなかった。
夕方、
海が見えるベンチ。
夕日がゆっくり沈んでいく。
波の音だけが聞こえる。
私は静かに口を開く。
「……聞いてもいい?」
「うん」
「君の能力」
アユト君は私を見た。
「歴史を見る能力」
「そう」
「どういう能力なの?」
彼は海を見つめながら話し始めた。
「人間の歴史が見える」
「全部?」
「全部じゃない」
「重要だった出来事だけ」
「その人の人生を形作った場面。
「強い感情、
「後悔、
「幸せ、
「絶望、
そういうものが流れ込んでくる」
私は、ため息が出る。
「それで?」
「鈴木さんを初めて見た時、わかった気がした」
アユト君は静かに続けた。
「……全部?」
「多分」
「……怖くないの?」
「何が?」
「私は普通じゃない」
「言われてみたら、そうかも」
「否定しないんだね」
家へ帰る。
こういう日も、悪くないかもしれないな。


