月影の彼方〜千年の約束〜



「パパ!」

無邪気な女の子の声。

「あ!葵ちゃんずるい!りっくんも!」

続いて、幼い男の子の声。

「はいはい、二人とも、順番な」

「もう、晴人ったら。ほんと、子供たちに甘いんだから」

大きな屋敷と大きな庭。

その庭の中心には桜の木。


「ほら」

肩車された女の子が、その桜の木の枝に触れる。

「触ったか?」

「うん!」

「次!次りっくん!」

「はいはい」

女の子を降ろし、小さな男の子を抱き上げる。

「触った!」

キャッキャっと無邪気に笑う子供達。

その時。

「晴人ー!」

玄関の方から聞こえた声。

その声と共に現れたのは、酒の瓶をぶら下げた晃だった。

「こんにちわ、八神さん」

「こんちわ!菜々ちゃん、相変わらず可愛いね!」

「晃、人の奥さんを口説くな」

「おう晴人!」


————
——


「子供たちは?」

「菜々が買い物に連れて行ったよ」

「そっか」


縁側に座り、晃が持ってきた酒瓶を開ける。

「お前が二人の子持ちかぁ」

「なんだよ、藪から棒に」

「いや?感慨深いなぁって」

「お前だって仲良くやってんだろ」

「まぁな」

晃が酒を一口飲む。
 
「さっき何やってたんだ?」

「ん?」

「子供らと。桜の木の枝に触ってたろ」

「ああ。桜の木がお前らを守ってくれるって言ったらな、触りたいって」

「可愛いな」

晃がふ、と笑う。

晴人も笑った。

二人で酒を飲みながら、しばらく他愛もない話をした。

そして。

晴人は空になったお猪口を見つめた。

「もうすぐ、リッカと過ごした十五年より、お前といる時間の方が長くなるんだな」

「なんだよ。不満か?」

晃が目を細める。

「まさか」

そして。

晴人は桜の木を見上げた。

「……リッカ。お前が守ってくれたこの家を、今度は俺が守っていくからな」

「ん、なんか言ったか?」

「……いや?何も」


庭に風が吹く。

桜の花びらが舞った。

まるで誰かが笑ったような気がして、晴人は空を見上げる。

そこには、澄み渡る青空が広がっていた。



それは、千年続いた約束の物語。




Fin