「探検しようぜ」
コンビニで買った晩ご飯を食べ終わった後、唐突に晃が言った。
最初は何を言い出したのかよくわからなかった。
「この家広いし、歴史もあるし、きっと何か面白いもの見つかるかも!」
リッカの目がキラリと光る。
「面白そうだな」
「だろ!」
俺の意見なんてお構いなしに、突然宝探しが始まった。
「さて、どこから攻める?」
「屋根裏もあるぞ」
「絶対何かあるじゃん!」
子供みたいにテンションが上がっている二人を横目に、縁側の襖を開けた。
涼しい風が入ってくる。
「おお、いい風」
晃が両手を広げる。
「この家って千年前から変わってないのか?」
唐突な質問に、リッカが苦笑した。
「さすがに何度か建て替えられている」
「そりゃそうか」
二人は妙に気が合うらしく、会話はとても楽しそうだった。
晃とはついこの間会ったばかりなのに、なんだかずっと三人でいたみたいな不思議な感覚になる。
「まずはそうだな。二階を見てもいいか?」
「ああ」
三人で二階へ上がる。
一番手前の部屋を開けた瞬間、不意に古い記憶が蘇った。
「ここ、寝室だ」
俺の言葉に、リッカがうなずく。
本棚にはたくさんの本が残っていた。
その中から、古いアルバムを見つけて手に取る。
「なんか見つけたか?」
ページをめくる。
「……これ」
「……懐かしいな」
リッカが静かに言った。
そこには若い男性と女性が写っていた。
「お前の両親だ」
「……俺の、父さんと母さん」
「晴人に似てるな」
そして次の写真を指差す。
「これがお前だ」
そこには、たくさんの写真と、母の字と思われる文字が並んでいた。
『晴人 初めてのはいはい』
『晴人 初めてのお散歩』
『一歳のお誕生日』
『初節句』
「はは。この時お前がうんちを漏らしてな。由紀の慌てようがおかしかった」
「へぇ!」
リッカの説明に、晃が笑う。
「覚えてない」
恥ずかしくなってそう言うと、リッカはまた笑った。
「お、これはお前が初めて哲平を『パパ』と呼んだ時だな。哲平が馬鹿みたいに泣いていて、由紀が記念に撮ったんだ」
「記念に撮るなよ」
「お、もう一枚ある」
ページをめくる。
庭で、両親と、その間に立つ幼い俺が写っていた。
「家族写真だな」
「ああ」
「あれ?」
ふいに晃の手が止まる。
「ここ。この桜の木のところ」
晃が指差した先。
そこには誰も写っていない。
「これ、リッカだよな?」
晃には見えているらしい。
リッカがそっと視線を逸らした。
「ほら、ここ」
目を凝らして見ると、桜の木の横に、うっすらと影のような顔が写っていた。
「……心霊写真じゃん」
晃が笑う。
つられて俺も笑った。
宝探しをしていたはずなのに。
いつの間にか思い出話になっていた。
その日は遅くまで起きていた。
座敷に敷いた布団の上で、三人でオセロをしたり。
リッカはやっぱりオセロが弱かった。
夜中。
不意に目を覚ますと、隣で晃が大きなイビキをかきながら寝返りを打った。
縁側から入ってくる涼しい風。
ふと部屋の中を見渡すと、リッカの姿が見当たらなかった。
「……リッカ?」
「起こしてしまったか」
その時、縁側の方から聞こえた声に視線を向ける。
縁側に腰掛け、酒を飲んでいるリッカの姿があった。
「酒なんてあったのか」
「蔵に残っていた。昔はよくここで清や哲平と酒を飲んだものだ」
リッカの隣に腰を下ろす。
そこからは庭の桜の木がよく見えた。
今は夏だから花は咲いていない。
けれど、満開になればきっと綺麗なんだろうと思った。
その時、ふ、と縁側の柱に目が止まった。
その古い柱には、たくさんの線が引いてあった。
そしてその線の横には、名前が書いてある。
——哲平 五歳
——哲平 十歳
——哲平 十五歳
「……清がな」
晴人の視線に気付いたリッカが、懐かしそうに柱へ手を伸ばす。
指先で古い印をなぞる。
「お前の祖父が、哲平が小さい頃からこうして、節目節目に身長を記録してきた」
少し笑う。
「そして、それを哲平も真似ていたな」
リッカの視線が下がる。
柱の下の方。
そこには比較的新しいマジックの跡が残っていた。
——晴人 三歳
——晴人 五歳
「……これ」
「お前のだ」
晴人は思わず印に触れた。
「……覚えてない」
「そうだろうな」
リッカが小さく笑う。
「……リッカ」
「どうした」
「ありがとう」
「何がだ?」
「俺が覚えていないことを、リッカが全部覚えていてくれたから」
リッカは少しだけ目を細めた。
「……ああ」
「今日、ここに来てよかった」
その言葉に、リッカの視線が揺れる。
「花火大会も、楽しみだな」
「……そうだな」
これからも、ずっとこんな時間が続いていけばいいのに。
その言葉は言わずに飲み込んだ。
恥ずかしかったのもある。
けれど、わざわざ口にする必要はないと思ったからだ。
そうして、月島家での夜は更けていった。



