ミミミちゃん(意味が分かると怖い話)

「えっ……!」

世界が、パッと広がったのだ。

となりにある飲み物の棚、背中側にあるお菓子コーナー、壁の時計、
雑誌を読んでいるスーツのおじさん。
「いつまで立ち話してるのかしら」と不機嫌そうにこっちを見ているレジのお姉さん、ぜんぶが同時に見えている。

それだけじゃない。
天井でまたたく蛍光灯も、店内を飛びまわる元気なハエも、床に落ちたレシートも、お店の外を走る自動車まで……。

まるで、360度カメラで撮影した映像を見ているみたいだった。
上下、左右、前も、後ろも。
自分のまわりにあるすべての景色が、いっぺんに、はっきりと見えたのだ。

「どう、すごいでしょ?」
と、得意げに笑うミミミちゃんの顔だって。

「……わたし、まわりがぜんぶ見えてるよ! 視力が上がったの?」

「視力じゃなくて、『視界』だよー」

サヤカは胸を高鳴らせた。
これなら、まわりの席の子のテスト用紙をぬすみ見るなんてカンタンだ。
首を動かさなくても、ぜんぶ丸見えなんだから。
明日のテストはバッチリだ!

「すごいよ、ミミミちゃん!」

「気に入ってくれたならよかったよー。なら、サヤカちゃんにプレゼントするねー」

「えっ、こんなにすごいモノをくれるの!?」

「うん。遠慮しないでいいんだよー。わたしは他にもたーくさんのすごいアイテムを持ってるし」

カバンをぱんぱんと手のひらでたたくと、それから、ミミミちゃんは人差し指を立てた。

「ただ、一つだけ注意してね。百目リングを使うのは、1日に『2時間』まで。それ以上使うと、つかれちゃうかもしれないからねー」

「そっか、2時間だけか……」

「んー? 授業中に気になってる男の子を見るだけなら、それだけで十分じゃないー?」

ミミミちゃんにそう言われ、サヤカはハッとした。
(いけない。カンニングに使うつもりだってバレちゃう!)

「う、うん、そうだよね! 十分だよ、十分!」
サヤカはあわてて、わざとらしく笑ってごまかした。

サヤカはお礼のしるしに、サイフに入っていたおこづかいを全部使って、ジュースやスナック菓子をどっさり買いこんだ。
それをミミミちゃんにプレゼントして、何度も何度もお礼を言った。

「バイバーイ! ありがとうねー!」

コンビニの前でミミミちゃんと大きく手を振り合って別れ、サヤカは家への道を急いだ。

うれしさのあまり、思わずスキップをしてしまう。

これさえあれば、苦手な理科や数学だって、頭のいい人の答えを写し放題だ!

『全教科70点以上』というお母さんの条件も、らくらくクリアできそう。
かわいい浴衣を着て、友だちと夏祭りに行く自分の姿が目に浮かんでくる。

サヤカはニヤニヤしながら、手首にはまった百目リングを愛おしそうになでた。