翌日は、雨上がりの朝だった。
空は澄み渡り、昨日までの雨が嘘のように青く広がっている。
仕事を終えた私は、少し緊張しながらカフェ・ルーチェの扉を開けた。
カラン、とドアベルが鳴る。
「いらっしゃい……じゃなかった」
カウンターの向こうで悠真さんが照れくさそうに笑う。
「今日はお客さんじゃなくて、話をする約束でしたね」
私も小さく笑った。
「はい」
閉店後の店内は静かだった。
いつも座る窓際の席に向かい合って座る。
少しだけ緊張した空気が流れる。
やがて悠真さんが静かに口を開いた。
「昨日の話だけど」
私は黙って頷いた。
「『昔好きだった人がいる』っていう話は、本当です」
胸がきゅっと締めつけられる。
やっぱり……。
そう思った、その時だった。
「でも、その相手は」
悠真さんは真っ直ぐ私を見つめた。
「雨宮さんです」
「……え?」
何を言われたのか分からなかった。
頭が真っ白になる。
「初めて会った日、段ボールを一緒に運んでくれましたよね」
私は小さく頷く。
「そのあと、お礼に渡した焼き菓子のお返しに肉じゃがを作ってきてくれたでしょう?」
もちろん覚えている。
「あの日から気になっていました」
優しい笑顔。
本の話をして笑った時間。
相合傘。
レシピノート。
「気づいたら、会える日が楽しみになっていました」
胸が熱くなる。
「でも最近、急に避けられるようになって……」
悠真さんは少し困ったように笑った。
「嫌われたのかと思って、何も聞けませんでした」
私は首を横に振る。
「違います」
声が震えた。
「嫌いになんて、なってません」
涙が滲んで、視界がぼやける。
「じゃあ、どうして?」
その問いに、私はもう隠せないと思った。
今までずっと逃げてきた。
傷つくのが怖くて。
失うのが怖くて。
でも。
目の前の人まで失いたくなかった。
私はゆっくり息を吸う。
そして、ずっと胸の奥にしまっていた想いを口にした。
「好きになったからです」
涙が頬を伝う。
「好きになればなるほど怖くなって……」
「また離れてしまうんじゃないかって思って……」
「だから逃げました」
言葉が止まらない。
「でも……」
私は悠真さんを真っ直ぐ見つめた。
「もう無理です」
小さく笑う。
涙でぐしゃぐしゃなのに、不思議と心は軽かった。
「好きが止まらないんです」
その一言を聞いた悠真さんは、少し目を潤ませながら笑った。
「よかった」
その声も少し震えていた。
「俺も止まらなかった」
そっと手が伸びてくる。
「手、つないでもいいですか?」
私は何も言わず、その手を重ねた。
温かい。
ずっと触れたかった温もりだった。
◇
数週間後。
カフェ・ルーチェの窓際には、一冊のノートが置かれていた。
表紙には、小さな文字で書かれている。
『二人のレシピノート』
最後のページを開く。
そこには、悠真さんの字。
『これからも、一緒にたくさんの思い出を増やしていこう。』
その下に、私はそっと書き添える。
『もちろんです。』
そして、その横に小さなハートを一つ。
「また増えましたね」
悠真さんが笑う。
「はい」
私は頷いた。
窓の外では、雨上がりの陽射しが街を優しく照らしている。
あの日、雨の中で差し出された一本の傘。
そこから始まった恋は、もう迷わない。
好きな気持ちは隠さなくていい。
だって──
好きが止まらない。
その想いは、これから先もずっと、二人を幸せへと導いてくれるのだから。
空は澄み渡り、昨日までの雨が嘘のように青く広がっている。
仕事を終えた私は、少し緊張しながらカフェ・ルーチェの扉を開けた。
カラン、とドアベルが鳴る。
「いらっしゃい……じゃなかった」
カウンターの向こうで悠真さんが照れくさそうに笑う。
「今日はお客さんじゃなくて、話をする約束でしたね」
私も小さく笑った。
「はい」
閉店後の店内は静かだった。
いつも座る窓際の席に向かい合って座る。
少しだけ緊張した空気が流れる。
やがて悠真さんが静かに口を開いた。
「昨日の話だけど」
私は黙って頷いた。
「『昔好きだった人がいる』っていう話は、本当です」
胸がきゅっと締めつけられる。
やっぱり……。
そう思った、その時だった。
「でも、その相手は」
悠真さんは真っ直ぐ私を見つめた。
「雨宮さんです」
「……え?」
何を言われたのか分からなかった。
頭が真っ白になる。
「初めて会った日、段ボールを一緒に運んでくれましたよね」
私は小さく頷く。
「そのあと、お礼に渡した焼き菓子のお返しに肉じゃがを作ってきてくれたでしょう?」
もちろん覚えている。
「あの日から気になっていました」
優しい笑顔。
本の話をして笑った時間。
相合傘。
レシピノート。
「気づいたら、会える日が楽しみになっていました」
胸が熱くなる。
「でも最近、急に避けられるようになって……」
悠真さんは少し困ったように笑った。
「嫌われたのかと思って、何も聞けませんでした」
私は首を横に振る。
「違います」
声が震えた。
「嫌いになんて、なってません」
涙が滲んで、視界がぼやける。
「じゃあ、どうして?」
その問いに、私はもう隠せないと思った。
今までずっと逃げてきた。
傷つくのが怖くて。
失うのが怖くて。
でも。
目の前の人まで失いたくなかった。
私はゆっくり息を吸う。
そして、ずっと胸の奥にしまっていた想いを口にした。
「好きになったからです」
涙が頬を伝う。
「好きになればなるほど怖くなって……」
「また離れてしまうんじゃないかって思って……」
「だから逃げました」
言葉が止まらない。
「でも……」
私は悠真さんを真っ直ぐ見つめた。
「もう無理です」
小さく笑う。
涙でぐしゃぐしゃなのに、不思議と心は軽かった。
「好きが止まらないんです」
その一言を聞いた悠真さんは、少し目を潤ませながら笑った。
「よかった」
その声も少し震えていた。
「俺も止まらなかった」
そっと手が伸びてくる。
「手、つないでもいいですか?」
私は何も言わず、その手を重ねた。
温かい。
ずっと触れたかった温もりだった。
◇
数週間後。
カフェ・ルーチェの窓際には、一冊のノートが置かれていた。
表紙には、小さな文字で書かれている。
『二人のレシピノート』
最後のページを開く。
そこには、悠真さんの字。
『これからも、一緒にたくさんの思い出を増やしていこう。』
その下に、私はそっと書き添える。
『もちろんです。』
そして、その横に小さなハートを一つ。
「また増えましたね」
悠真さんが笑う。
「はい」
私は頷いた。
窓の外では、雨上がりの陽射しが街を優しく照らしている。
あの日、雨の中で差し出された一本の傘。
そこから始まった恋は、もう迷わない。
好きな気持ちは隠さなくていい。
だって──
好きが止まらない。
その想いは、これから先もずっと、二人を幸せへと導いてくれるのだから。



