居たいけど、居たくないから。

――ピーンポーン……


来た。瑞稀が。


関わるなと言ったのに。


気を逸らすために、棚にあった甘露の飴を1個手に取る。


茶色に輝く球体が、まるで濁ったお月様だ。


すると、母が笑顔で……


「みっくん!よく来たねー!ごめんね、こんな雨の中」


「大丈夫ですよ、佳緒さん。おはようございます」


母は、栩野(とちの) 佳緒(かお)


優しくて、大好きなはずのお母さんが、今だけ大っ嫌いな存在だ。


「明結…あっ……」


そう間抜けな声を漏らした瑞稀の横を、用意しておいたスクールバッグを荒く肩にかけて素通り。


傘は、要らないって思った。


「明結!?こら!みっくんがせっかく来てくれたのよ!それに傘は!」


「いつものことでしょ」


「明結…!」


「あんた認知症なわけ?」


「は?」


「2人の邪魔はしたくない。だから、当分は話しかけないで」


「っ……」


「昨日言ったよね。あ、否定しないんだ。じゃあ、そろそろ陽葵くるよ。わたし先行っとくから」


「、ま…」


「待て?無理。」


「いや、あ、ゆ…?」


「もう2度と、わたしに関わってこないでよ!」


毎日迎えに来るくせに。


わたしの気持ちなんか無視してさ。


陽葵とばかり。目の前で。


もう、あんたが分からないよっ……瑞稀…


わたしは激しく降る雨の中を、1人寂しく駆け抜ける。


甘露の飴をぽいっと、口に放り込んだ。


いつもなら甘じょっぱい味がするはずなのに、今日はほろ苦い……


これが恋ってもんなの?


こんなのでいいの?


ここで、諦めちゃっていいの?


瑞稀も分かんないし…自分も分かんないよ……。