車内に流れる沈黙を破ったのは、紫月だった。


紫月「真尋。」


名前を呼ばれ、真尋はゆっくり顔を上げる。


紫月「怪我は。」


真尋「あぁ、大丈夫。」


そう答えながら後頭部へ触れる。

血はもう止まり始めていたが、鈍い痛みだけは残っていた。


那瑠「大丈夫じゃねぇだろ。思いっきりやられてたじゃん。」


綾人「珍しいよな。真尋が不意打ち食らうなんて。」


真尋は苦笑しながら肩を竦める。


真尋「俺もまさか後ろから来るとは思わなかった。」


そう言いながら、視線は自然と星那の膝で眠る綺羅へ向いた。

穏やかな寝息。

さっきまで涙を流しながら暴れていたとは思えないほど静かな表情だった。

真尋は昼間の出来事を思い返す。

自分を守るように抱き締められたこと。

「生きてる……。」

震える声でそう呟いたこと。

そして、何度も何度も「ごめん」と謝り続けていたこと。

あの瞳に映っていたのは、自分じゃなかった。

もっと別の誰か。

大切だった誰か。


真尋「……なぁ。」


ぽつりと呟く。


那瑠「ん?」


真尋「俺、あの子に会うの今日が初めてだよな。」


綾人「あぁ。」


真尋「じゃあ、なんであんなに泣いてたんだろうな。」


その問いに答えられる者はいなかった。

車内には再び静かな空気が流れる。

ただ一人、星那だけが眠る綺羅を見つめたまま、小さくその前髪を整えた。


星那「……。」


何も言わない。

だけどその横顔は、どこか考え込んでいるように見えた。

紫月はそんな二人を静かに見つめながら、窓の外へ視線を移す。

誰もまだ知らない。

この転校生が、自分達の運命を大きく変えていくことを。