星那「……もう、大丈夫。」


耳元で聞こえた静かな声。

その一言だけが、不思議なくらいはっきりと耳へ届いた。

綺羅の身体が小さく震える。

目を覆う温かな手。

肩へ添えられたもう片方の手。

乱れていた呼吸が少しだけ止まる。


星那「ちゃんと生きてる。」


その言葉に、胸の奥で何かが音を立てて崩れた。

生きてる。

その一言が、さっき真尋に言われた言葉と重なる。


星那「もう誰もいなくならない。」


優しく、ゆっくりと言い聞かせるような声だった。

綺羅の握り締めていた拳から少しずつ力が抜けていく。


綺羅「……るう……。」


震える声が漏れる。

星那は目を覆ったまま、小さく首を振った。


星那「違う。」


その一言に、綺羅の呼吸が止まる。


星那「ちゃんと前を見て。」


静かな声だった。

怒るでもなく、諭すでもない。

ただ、壊れかけた心へ寄り添うような優しさだった。

綺羅の瞼から大粒の涙が零れ落ちる。


綺羅「……っ。」


全身から一気に力が抜けた。

支えを失った身体が後ろへ倒れそうになる。

星那は目を覆っていた手を離し、そのまま綺羅を受け止めた。

ふわりと軽い身体。

綺羅は意識を失う直前、ぼんやりと星那を見上げる。

視界は滲んでいて顔なんて見えない。

それでも最後に聞こえたのは、落ち着いたその声だった。


星那「……お疲れ。」


その言葉を最後に、綺羅の意識は静かに闇へ沈んでいった。

周囲は、誰一人として言葉を発せなかった。

目の前で起きた出来事が、あまりにも現実離れしていたからだ。

真尋は頬に残る綺羅の手の温もりを感じながら、呆然とその場に立ち尽くす。

那瑠も綾人も言葉を失い、紫月だけが静かに目を細めていた。

その視線は、星那に抱き留められた綺羅から、一度も離れることはなかった。