頭では分かっている。

目の前にいるのは真尋だ。

琉羽じゃない。

それなのに、身体は私の言うことを聞かなかった。

気付けば走り出していた。


「綺羅……?」


誰かが私を呼ぶ。

でも、その声は耳に届かない。

私は真尋の前へ滑り込むように膝をついた。

震える腕で、その身体を強く抱き締める。


綺羅「……よかった。」


声が震える。

肩へ顔を埋めると、制服へ血が滲んでいくのが分かった。

それでも離せなかった。


綺羅「生きてる……。」


熱がある。

鼓動がある。

ちゃんと息をしている。

その事実だけで張り詰めていた糸が切れた。


綺羅「よかったぁ……。」


涙が次から次へと溢れてくる。

あの日は何も出来なかった。

抱き締めることも助けることも間に合わなかった。

だから、お願いだから。

もう誰も私の前でいなくならないで。

私は両手で真尋の頬を包み込んだ。

血で汚れた頬を何度も何度も優しく撫でる。


綺羅「ごめん……ごめんね……本当に、ごめん……」


真尋「……え?」


突然抱き締められ、頬へ触れられ、涙を流しながら謝られる。

何が起きているのか理解出来ない。

真尋は耳まで赤く染めながら困ったように笑った。


真尋「お、おい……俺、生きてるから。」


その言葉さえ、綺羅には届いていなかった。