教室へ入ると昨日よりも視線は少なかった。

もちろん全く見られない訳じゃない。

だけど、転校初日ほどの騒ぎはない。

少しだけほっとする。

このくらいなら何とかやっていけるかもしれない。

席へ向かう途中、何人かの男子が「おはよう」と声を掛けてきた。

私はその度に小さく返事を返す。

昨日ならそれだけでも疲れていたはずなのに、今日は少しだけ違った。

人に慣れた訳じゃない。

ただ、昨日一日を乗り越えられた事で肩の力が抜けていた。


翔「綺羅!」


また翔だった。

本当にこの人は元気だな。

翔は椅子を引きながら私を待っている。

翔「今日の放課後さ、街案内してやろうと思ったんだけど」


綺羅「いい」


翔「最後まで聞けって!」


思わず少しだけ笑ってしまう。

翔は大袈裟に落ち込んだ振りをすると、机に突っ伏した。


翔「せっかく転校してきたのに、学校と家の往復だけとかつまんねぇじゃん」


綺羅「私はそれでいい」


翔「青春しようぜ青春」


綺羅「遠慮しとく」


そう返すと、翔は「手強いなぁ」と苦笑した。

誰かと一緒に帰る。

放課後遊ぶ。

そんな当たり前の高校生活が、今の私にはまだ少し遠かった。