翔は歩いていく星那の背中を見つめたまま、しばらく固まっていた。

その反応が少し気になって隣を見る。


綺羅「……何?」


翔「いや、ちょっと信じられなくて」


綺羅「何が?」


翔はまだ納得できないように頭を掻きながら、小さく笑った。


翔「星那、自分から挨拶とかほとんどしねぇんだよ」


私はもう一度だけ星那の後ろ姿を見る。

眠そうに歩きながら欠伸をしている姿は、昨日と何も変わらない。そんな人が挨拶をしただけで、ここまで驚かれるものなんだろうか。


綺羅「普通に『おはよう』って言っただけじゃん」


翔「それが普通じゃないんだって」


「昨日話したからじゃね?」と翔は笑った。

そういうものなんだろうか。

私にはよく分からない。

昨日だって話したと言えるほど話した訳じゃない。ただ屋上で少し言葉を交わしただけ。それだけで何かが変わるとは思えなかった。

それに。

あの人は誰に対してもあんな感じなんじゃないかと思う。

眠そうで、やる気がなくて、何を考えているのか分からない。

やっぱり変な人だ。

そんな結論に落ち着きながら、私は昇降口へ足を踏み入れた。