私は小さく眉をひそめ、そのまま視線を外した。考えるだけ無駄だ。もう関わる事もないだろうし。

そのまま校門を抜けようとした時だった。

後ろから聞こえてきた声に思わず足が止まる。


?「紫月知り合いか?」


総長。さっき周りが騒いでいたあの男の事だろう。興味はない。興味はないけど、距離が近かったせいで嫌でも耳に入る。


?「いや」


短い返事だった。朝会った男の声だ。


?「じゃあなんで見てたんだ?」


少しの沈黙。そして。


?「珍しいなと思っただけだ」


その言葉に私は小さく息を吐いた。

やっぱり。それだけだったらしい。

私は今日転校してきたばかりだ。しかもこの学校で初めての女子生徒。目立たない方がおかしい。それだけの話。

私は再び歩き出した。夕暮れの風が頬を撫でる。少しだけ冷たい。空を見上げれば、青かった空はゆっくりと茜色へ変わり始めていた。

こんな時間に外を歩くのは久しぶりだ。

学校帰りなんて、もうずっとしていなかったから。

目の前にはいつもと変わらない景色が広がっている。車の音。信号待ちをする人達。どこにでもある日常。

私が欲しかったものだ。

普通の毎日。

普通の高校生活。

普通の女の子。

そのはずなのに、胸の奥にはぽっかり穴が空いたままだった。

隣にいるはずの人がいない。

たったそれだけで世界はこんなにも静かになる。

無意識に握った拳に力が入る。

思い出すな。

前を向こうと決めただろ。

そう自分に言い聞かせながら、私は小さく首を振った。

夕焼けに伸びる影は一つだけだった。