皇蓮司は周囲の下っ端達を一瞥すると、そのまま工場の中へ歩いていく。
誰も目を合わせようとしない。
それだけで、この男がどれほど恐れられているかが分かった。
綺羅は拳を強く握る。
爪が掌へ食い込む。
脳裏に浮かぶのは、血だらけで倒れた琉羽。
『綺羅……生きろ。』
最後に聞いた声。
最後に見た笑顔。
綺羅「……待ってて。もう少しだから。」
今ここで飛び出せば、この距離なら皇蓮司まで辿り着ける。
そう思った瞬間皇蓮司の後ろから十人以上の男達が姿を現した。
さらに建物の中からも続々と人が出てくる。
綺羅はゆっくり首を横へ振った。
綺羅「今じゃない。」
勝てないからじゃない。
確実に殺すためだ。
そのためには、まだ情報が必要だった。
綺羅は皇蓮司の動きを目で追いながら、新しいページを開く。
『皇蓮司確認』
『幹部 三人』
『下っ端 三十名前後』
『武器所持あり』
一本一本、丁寧に文字を書き込んでいく。
復讐の日は、確実に近付いていた。
十二ページ
その日の監視を終えた綺羅は、ビルの階段をゆっくり下りていた。
疲れはあるけど足は止まらない。
あと数日黒焔の動きを把握できれば終わる。
その時は一人で乗り込む。
そう心に決めていた。
ビルを出た綺羅は、人気の少ない路地を歩き始める。
夕日が街を赤く染めていた。
その頃少し離れた場所では学校を出た星那が、一人ゆっくり歩いていた。
目の下の隈は日に日に濃くなっている。
眠い。
身体は限界だった。
それでも眠れない。
綺羅がいなくなってから、一度も心から眠れた日はなかった。
星那は小さく欠伸をすると、何気なく前を見た。
その視界を、一台のバイクが横切る。
背中には見覚えのない黒い特攻服。
大きく刺繍された二文字。
――黒焔。
星那の足が止まる。
星那「……黒焔。」
数日前。
綺羅が暴れていた時に聞こえた名前。
嫌な胸騒ぎがした。
理由は分からない。
でも今、この男達を見失ってはいけない。
そんな気がした。
星那は静かに距離を取りながら、黒焔の下っ端達の後を追い始めた。



