翌日。

綺羅は夜明け前には家を出ていた。

まだ街も眠っている時間。

冷たい朝の空気が頬を撫でる。

誰もいない歩道を一人歩き、昨日と同じビルの屋上へ上がった。

静かな工場地帯。

黒焔のアジトも、まだ動きはない。

綺羅はフェンスにもたれ、双眼鏡を構える。

時間だけが静かに流れていった。

午前九時。

見張りが交代する。

十時。

ワゴン車が一台入っていく。

十一時。

幹部らしき男が二人。

綺羅はメモ帳へ書き込みながら、小さく息を吐いた。


綺羅「……まだ。」


昨日聞いた言葉は嘘だったのだろうか。

それとも今日は来ないだけなのか。

焦りが胸を締め付ける。

その時だった。

ブォォォォン――。

遠くから聞き覚えのある重低音が響いた。

綺羅は反射的に双眼鏡を構える。

数台のバイクが一直線にアジトへ向かってくる。

門番達が慌てて門を開けた。


黒焔の下っ端「総長!」


「お疲れ様です!」


その一言に、綺羅の呼吸が止まる。

先頭の男がゆっくりヘルメットを脱いだ。

銀色の髪に左目の下を走る傷。

冷たい眼差し。

綺羅の瞳が大きく揺れる。


綺羅「……皇、蓮司。」


忘れた日は、一日もなかった。