綺羅はすぐには近付かなかった。
ゆっくり周囲を見渡す。
見張りは二人か。逃げ道になりそうな裏口はあるのか?建物の大きさと車の出入り場所一つ一つ確認しなきゃ。
(今、一人で突っ込んでも意味がない。)
倒したい相手は下っ端じゃない。
皇蓮司。
黒焔総長。
琉羽の命を奪った男。
その男へ辿り着くためには、感情だけで動くわけにはいかなかった。
綺羅は近くのビルの屋上へ上がれる非常階段を見つける。
静かに階段を上り、屋上から廃工場を見下ろした。
ここなら様子がよく見える。
何人出入りするのか。
幹部はいるのか。
皇蓮司は現れるのか。
全部調べる。
そう決めた。
綺羅はポケットから小さなメモ帳を取り出す。
『見張り 二人』
『入口 一ヶ所確認』
『裏口 未確認』
ゆっくりと書き込んでいく。
その瞳に迷いはなかった。
ただ一つ。
「琉羽の仇を討つ。」
その想いだけが、綺羅の心を支配していた。
その日から綺羅は、誰にも何も告げることなく、黒焔を追い続けることになる――。



