学校の近くまで戻る頃には、住宅街の窓から温かな灯りが漏れ始めていた。

夕飯の匂いが風に乗って漂う。

綺羅は立ち止まり、星那へ向き直る。


綺羅「じゃあ、また明日。」


星那も足を止める。


星那「うん。」


綺羅は軽く手を振り、そのまま歩き出そうとした。


星那「綺羅。」


名前を呼ばれ、振り返る。


綺羅「なに?」


星那は少しだけ考え込むように黙った。

眠そうな目を擦り、小さく欠伸をする。

そして、ぽつりと口を開いた。


星那「明日の昼休み屋上来て。」


あまりにも簡潔な誘い方だった。

綺羅は思わず首を傾げる。


綺羅「屋上?なんで?」


星那は真顔のまま答える。


星那「眠い。」


一瞬、綺羅は意味が分からなかった。


綺羅「……え?」


星那「静かだから寝れる。」


あまりにも真面目に言うものだから、綺羅は吹き出してしまう。


綺羅「ふふっ!そんな理由で人呼ぶ?」


星那は眠そうに瞬きをする。


星那「大事。綺羅がいた方が落ち着く。」


何の迷いもなく言われた一言に、綺羅は一瞬固まる。


綺羅「……え?」


本人は特別なことを言ったつもりはないのだろう。

星那はきょとんとしたまま首を傾げている。

綺羅だけが少しだけ頬を赤くした。


綺羅「……わ、分かった。行くね」


その返事を聞いた星那は、小さく頷く。


星那「待ってる。」


そのまま二人は別々の帰り道へ歩き出した。

綺羅は何度か振り返りそうになりながらも、そのたびに小さく首を振る。

(落ち着くって……。)

(それ、ずるいでしょ。)

そんなことを思いながら、自然と頬が緩んでいた。