倒れ込んだ男①は腹を押さえながら綺羅を睨む。


男①「くそっ……!」


男②「何なんだよ、こいつ……!」


近くにいた数人の仲間が異変に気付き、慌てて駆け寄ってくる。


「おい!」


「どうした!」


男①は痛みに顔を歪めながら叫んだ。


男①「こいつだ!」


「やれ!」


街の人間なら警察は呼ばない。

喧嘩は喧嘩。

それがこの街の暗黙の了解だった。

集まってきた男達は全員、同じ暴走族の下っ端だった。

その中の一人が綺羅の姿を見て眉をひそめる。


男③「……どっかで見たことねぇか?」


男④「知らねぇよ。」


男③「いや……何か引っかかる」


綺羅にはその声は届いていない。

呼吸はさらに荒くなり、苦しそうに胸を押さえながらゆっくり拳を構える。

その瞳には街も、人も映っていなかった。

映っているのは、ただ一つ。

――琉羽が倒れた、あの日の景色だけだった。