理事長室を出ると、桐斗が私の少し前を歩き出した。

私はその背中をぼんやり見ながら後ろをついて行く。

もろ男子校。未だに信じられない。というか信じたくない。

普通の学校だと思っていたのに、蓋を開けてみれば男しかいないとか聞いてない。

いや、聞いてないんじゃなくて言われてないんだけど。

絶対わざとだ。後で真央には文句を言おう。

まぁ、どうせ笑って終わるんだろうけど。

そんなことを考えながら歩いていると、桐斗がふと振り返った。


桐斗「緊張してるか?」


綺羅「別に」


反射的にそう答えると桐斗は小さく笑った。

絶対信じてない。昔からそうだ。私が強がっても大体見抜かれる。

少し悔しい。


桐斗「大丈夫だよ」


桐斗はそう言って頭をポンっと撫でて前を向いた。

何が大丈夫なんだろう。根拠なんてどこにもないのに。

だけど不思議と少しだけ気持ちが軽くなる。昔から桐斗の言葉にはそういう力があった。

しばらく歩くと、生徒たちの声が聞こえてきた。

廊下にも人影が増えていく。

すれ違う男子生徒たちが一斉にこちらを見る。

正確には私を見てる。まぁ当然か。女子なんていない学校なんだから。

視線が痛いし帰りたい。今すぐ帰りたい。

でもここで逃げたら真央に絶対笑われる。

それはそれで腹が立つ。

そんなことを考えているうちに、桐斗が足を止めた。

顔を上げると目の前には教室の扉。

胸の奥が少しだけざわついた。

ここを開ければ、本当に月ヶ瀬学園の生徒になる。

もう後戻りはできない。

大きく息を吸って、ゆっくり吐き出す。

大丈夫。私は月華じゃない。

ただの雨宮綺羅だ。

そう言い聞かせるように拳を握る。

すると桐斗がこちらを見て小さく笑った。


桐斗「行くぞ」


そう言って扉に手を掛ける。

ガラッ――。

教室の扉が開いた。