十分ほど走ると、車は一軒の定食屋の前で止まった。


橘「着いたぞ。」


那瑠「腹減ったー!」


真っ先に車を飛び出した那瑠を見て、綾人が苦笑する。


真尋「子どもか。」


紫月も静かに車を降り、店の暖簾を見上げた。

綺羅も続いて外へ出る。

夕方の風が頬を優しく撫でた。

店の前からは、美味しそうな料理の香りが漂ってくる。


綺羅「……いい匂い。」


思わず小さく呟く。

その声を聞いた星那が隣で少しだけ笑った。


星那「ここの唐揚げ、おすすめ。」


綺羅「そうなの?」


星那「うん。あと卵焼きも」


真面目な顔で付け加える。

綺羅は思わず吹き出した。


綺羅「子どもみたい。」


星那「美味しいから。」


少しだけ拗ねたような返事に、綺羅はまた笑う。

その笑顔を見た星那は、自分でも気付かないうちに口元を緩めていた。

その様子を少し離れた場所から見ていた真尋は、那瑠へ小さく耳打ちする。


真尋「あいつ……。」


那瑠「あぁ。」


二人は顔を見合わせ、意味深に笑った。

星那はまだ、自分では気付いていない。

けれど、その視線はもう無意識のうちに、綺羅だけを追い始めていた。