?「久しぶりだな、綺羅」


聞き慣れた優しい声がして思わず目を見開く。

理事長室へ入ってきた男は、柔らかな茶色の髪を揺らしながら穏やかに微笑んでいた。


早瀬桐斗(はやせ きりと)。


真央と同じく、昔から私を知る数少ない人だ。夜桜のことも、月華のことも知っている。そして、あの日からの私も。


綺羅「桐斗……」


久しぶりに呼んだ名前は思ったより自然に口から出た。

桐斗はそんな私を見て少しだけ安心したように笑う。


桐斗「元気そうでよかった」


綺羅「どこが」


思わずそう返した。元気なわけがない。学校にも行かず、家に引きこもり続けていたんだから。

だけど桐斗は何も言わなかった。否定もせず、困ったように笑うだけだ。

昔からそうだった。

真央みたいに強引じゃない。無理に励ましたり、前を向けと言ったりもしない。ただ黙って隣にいてくれる。そんな人だった。

真央が面白そうに口を開く。


真央「ちなみにこいつ、お前の担任な」


その言葉に固まった。

思わず桐斗と真央を交互に見る。

冗談かと思ったけど、二人とも普通の顔をしている。