雨は小降りになっていた。
東屋を出る。
空はまだ暗い。
でもさっきまでより少しだけ明るかった。
二人は並んで歩く。
言葉は少ない。
それでも不思議と気まずくはなかった。
美都は傘を持つ手に力を込める。
隣を見ると翡翠がいる。
それだけで少し安心した。
「寒くない?」
翡翠が聞く。
「平気」
即答だった。
でも声は少し掠れている。
さっきまで泣いていたからだ。
翡翠は少し眉を下げる。
「今日はうち来る?」
優しい声。
当たり前みたいに言う。
美都は少し迷う。
でも今は一人になりたくなかった。
小さく頷く。
それだけで翡翠は少し安心したように笑った。
橘家へ向かう道、雨上がりの匂い。
濡れたアスファルト。
美都は無意識に翡翠との距離を詰めていた。
傘の下肩が少し触れる。
昔なら嫌だった。
でも今は違う離れる方が不安だった。
翡翠は何も言わない。
ただ少しだけ傘を傾けた。
美都が濡れないように。
その仕草に胸が痛くなる。
優しい。
本当にどうしようもなく好きだと思った。
今までの感情全部ひっくるめて好きだった。
でも言えない。
言ったら壊れそうで。
今の関係が終わりそうで怖かった。



