いじわるな指先に惑わされる恋なんてしたくないです!

綺麗な手をしてると思った。

白くて細くて長い指先で、それなのにちゃんと男の人をしている手がピアノを弾いていたから。

なんとも反則だ、と思ってしまった。


あれからずっと離れない、あの指先が。

私の中から消えてくれない。


しかも酔った勢いで弾いたストリートピアノなんて…!


「蓮見」

名前を呼ばれてハッとする。

蓮見茉奈(はすみまな)、23歳。
特に変哲もないただの事務員、ふゆるわヘアを目指して毎日のお手入れだけは欠かさない。

そして今この時間は確か…

「もう会議終わったけど?」

あっ!会議中だった!!

慌てて顔を上げたら前に座る宇佐美さんがにこりと笑っていた。

宇佐美至(うさみいたる)、25歳。
色の白い肌につやっとした黒髪、鼻筋がすーっと通ったバランスのいいお顔は誰がどう見てもイケメンと言わざる得ない。
同じ部署の先輩で、入社した時からずっと同じオフィスで働いてる。

「蓮見、会議全然聞いてなかったよね?」

「え、そんなことっ」

部署全員出席の営業会議だった、はずなんだけど気付けば会議室には私と宇佐美さんしかいなかった。どうやら私が別の世界にトリップ中にみんな戻って行ったらしい。

「これは社会人としてあるまじきことだよね」

「えっ、あの、その…っ」

たらたらと冷や汗が流れる。

しまった、よりによって1番バレたくない人にバレてしまった。

「これ部長に言ったらどうなるかな~?」

「あぁすみません!それは…っ」

ついつい見とれちゃってた、夢中で見ちゃってたから…
だって目の前にその手があったから。


顔より何より、あの綺麗な手が私の前にあったからー…!


「じゃあ言わない代わりに」

にこっと笑った、頬杖をついてほくそ笑むように。

「俺の下僕」

は?

「あ、間違えた!」

え、何が?

「俺の補佐、してくれない?」

さらに、にこりと笑う。
それは私に有無を言わせない笑顔で圧力さえ感じて。

「え、あの…っ」

「じゃあ、これコピーよろしく」

サッと渡されたUSB、この中のファイルをコピーしておくようにってことなんだろうけど。

そんなことより、そんなことより…


下僕って言ったぁぁぁーーーー!