「さすがはクリスマスイブですね。これまで誰も見かけたことがなかったのに」
ガーデンに行くとカップルが2組、腕を組んで楽しそうに歩いて行くのが見えた。
「私、他のゲストの方を初めて見たかも」
「おい、幽霊ホテルじゃないんだから」
「ふふふ、そうですよね。さすがはプライベート感を重視しているロイヤルクレストです。本当に贅沢な時間を過ごせますね」
亜紋と腕を組み、ゆっくりと花を見て回る。
「クリスマスローズがきれい」
「そうだな。樹莉、温室にも行ってみるか?」
「はい」
ガーデンの一番奥の温室に入ると、他のゲストは誰もいなかった。
みずみずしく暖かい空気が心地いい。
「冬なのに、とっても鮮やかですね」
ハイビスカスやブーゲンビリア、カトレアにポインセチア。
見ているだけで気分が華やいだ。
「樹莉の髪にも」
「え?」
顔を上げると、亜紋がそっと樹莉の頬に手を添える。
「ポインセチア。とてもよく似合っている」
「あ……、神谷さんが飾ってくれたの」
「そうか。きれいだな」
微笑みながら見つめられ、樹莉は視線をそらせなくなった。
知らず知らずのうちに涙が込み上げてくる。
「樹莉? どうした?」
気遣うような亜紋の優しい声と温かい眼差し。
いつも自分を大切に守ってくれるこの人を、自分はいつからこんなにも好きになっていたのだろう。
思わず樹莉は口を開いた。
「私、亜紋さんが好きなの」
亜紋は驚いたように目を見開く。
「あの、いきなりごめんなさい。胸がいっぱいになって、苦しくて、つい……」
恥ずかしさに視線を落とすと、ギュッと大きな胸に抱き寄せられた。
「……樹莉、好きだ。愛しくてたまらない」
「亜紋さん……」
「こんなに誰かを好きになったことなどない。狂おしいほど、どうしようもなく樹莉を愛している」
胸に直接響く亜紋の声は、樹莉の心を温めて癒やす。
樹莉の瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
「ずっと樹莉のそばにいて、樹莉をこの手で守りたい。だけど俺は、樹莉になに1つ捨ててほしくはないんだ。樹莉の生活も価値観も。俺に合わせてくれなくていい。だから樹莉、俺達の小さな家を建てよう」
「……え?」
突然なにを言われたのかと、樹莉は顔を上げて亜紋を見つめる。
「樹莉は、ここに住むことはできないと言った。それが自分の価値観だと。地に足をつけて生活したいという樹莉を、俺は誇りに思う。だから樹莉、俺と樹莉で二人の暮らしを始めよう。花が咲き乱れる庭を作って、毎日二人で眺めよう」
「亜紋さん、それって……」
戸惑うように呟く樹莉に、亜紋はきっぱりと告げた。
「俺と結婚してほしい」
ハッと息を呑んだ樹莉の胸が、切なさでしびれる。
「人魚姫は美しい声を奪われてでも足をもらい、海での生活を捨てて陸に上がる道を選んだ。けれど俺は樹莉からなにも奪いたくはない。樹莉には樹莉のままでいてほしい。そんな樹莉を、俺は心から大切にする」
「亜紋さん、私……」
樹莉は涙を堪えて懸命に言葉にする。
「私もあなたが大好きです。ずっとずっと一緒にいたい。だけど私はあなたとは住む世界が違うし、あなたの隣にいるべき人間じゃない。そう思うと、怖くて。だってあなたは、これからもこのロイヤルクレストで暮らしていくはずだったんでしょう?」
「そう思っていた自分を恥じたんだ。樹莉が気づかせてくれた。与えられた環境に甘んじて、深く考えもせずに生活してきた自分の浅はかさに。樹莉が俺を正しい道へと導いてくれる。樹莉といれば、俺は日々のささやかな喜びを見つけられ、幸せを噛みしめながら生きていける。俺には樹莉が必要なんだ。肩書も家柄も全て取り払った一人の男として。それだと樹莉は不満か?」
樹莉は「ううん」と首を横に振る。
「私、亜紋さんの隣にいられるだけでいいの。他にはなにもいらない」
「俺もだ」
亜紋はギュッと樹莉を胸に抱きしめる。
「俺が樹莉を選んだ。結婚しよう、樹莉」
「……はい、亜紋さん」
涙声で頷くと、亜紋はホッとしたような笑みを浮かべた。
「よかった。ありがとう、樹莉」
「こちらこそ。ありがとうございます、亜紋さん」
亜紋は身体を起こすとジャケットのポケットからリングケースを取り出す。
そっとケースを開けると、ダイヤモンドの指輪がキラリと輝きを放った。
「なんてきれい……」
「俺が愛するのはただ一人。樹莉だけが俺の最愛の人だ。その証を樹莉の指に」
亜紋は樹莉の左手をすくい、薬指にゆっくりと指輪をはめてから、その指にチュッと口づけた。
「亜紋さん……、ありがとう」
樹莉の頬に手を添えた亜紋は、こぼれ落ちる樹莉の涙を親指で拭う。
そのまま顔を寄せ、亜紋は樹莉の唇に優しい優しいキスをした。
ガーデンに行くとカップルが2組、腕を組んで楽しそうに歩いて行くのが見えた。
「私、他のゲストの方を初めて見たかも」
「おい、幽霊ホテルじゃないんだから」
「ふふふ、そうですよね。さすがはプライベート感を重視しているロイヤルクレストです。本当に贅沢な時間を過ごせますね」
亜紋と腕を組み、ゆっくりと花を見て回る。
「クリスマスローズがきれい」
「そうだな。樹莉、温室にも行ってみるか?」
「はい」
ガーデンの一番奥の温室に入ると、他のゲストは誰もいなかった。
みずみずしく暖かい空気が心地いい。
「冬なのに、とっても鮮やかですね」
ハイビスカスやブーゲンビリア、カトレアにポインセチア。
見ているだけで気分が華やいだ。
「樹莉の髪にも」
「え?」
顔を上げると、亜紋がそっと樹莉の頬に手を添える。
「ポインセチア。とてもよく似合っている」
「あ……、神谷さんが飾ってくれたの」
「そうか。きれいだな」
微笑みながら見つめられ、樹莉は視線をそらせなくなった。
知らず知らずのうちに涙が込み上げてくる。
「樹莉? どうした?」
気遣うような亜紋の優しい声と温かい眼差し。
いつも自分を大切に守ってくれるこの人を、自分はいつからこんなにも好きになっていたのだろう。
思わず樹莉は口を開いた。
「私、亜紋さんが好きなの」
亜紋は驚いたように目を見開く。
「あの、いきなりごめんなさい。胸がいっぱいになって、苦しくて、つい……」
恥ずかしさに視線を落とすと、ギュッと大きな胸に抱き寄せられた。
「……樹莉、好きだ。愛しくてたまらない」
「亜紋さん……」
「こんなに誰かを好きになったことなどない。狂おしいほど、どうしようもなく樹莉を愛している」
胸に直接響く亜紋の声は、樹莉の心を温めて癒やす。
樹莉の瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
「ずっと樹莉のそばにいて、樹莉をこの手で守りたい。だけど俺は、樹莉になに1つ捨ててほしくはないんだ。樹莉の生活も価値観も。俺に合わせてくれなくていい。だから樹莉、俺達の小さな家を建てよう」
「……え?」
突然なにを言われたのかと、樹莉は顔を上げて亜紋を見つめる。
「樹莉は、ここに住むことはできないと言った。それが自分の価値観だと。地に足をつけて生活したいという樹莉を、俺は誇りに思う。だから樹莉、俺と樹莉で二人の暮らしを始めよう。花が咲き乱れる庭を作って、毎日二人で眺めよう」
「亜紋さん、それって……」
戸惑うように呟く樹莉に、亜紋はきっぱりと告げた。
「俺と結婚してほしい」
ハッと息を呑んだ樹莉の胸が、切なさでしびれる。
「人魚姫は美しい声を奪われてでも足をもらい、海での生活を捨てて陸に上がる道を選んだ。けれど俺は樹莉からなにも奪いたくはない。樹莉には樹莉のままでいてほしい。そんな樹莉を、俺は心から大切にする」
「亜紋さん、私……」
樹莉は涙を堪えて懸命に言葉にする。
「私もあなたが大好きです。ずっとずっと一緒にいたい。だけど私はあなたとは住む世界が違うし、あなたの隣にいるべき人間じゃない。そう思うと、怖くて。だってあなたは、これからもこのロイヤルクレストで暮らしていくはずだったんでしょう?」
「そう思っていた自分を恥じたんだ。樹莉が気づかせてくれた。与えられた環境に甘んじて、深く考えもせずに生活してきた自分の浅はかさに。樹莉が俺を正しい道へと導いてくれる。樹莉といれば、俺は日々のささやかな喜びを見つけられ、幸せを噛みしめながら生きていける。俺には樹莉が必要なんだ。肩書も家柄も全て取り払った一人の男として。それだと樹莉は不満か?」
樹莉は「ううん」と首を横に振る。
「私、亜紋さんの隣にいられるだけでいいの。他にはなにもいらない」
「俺もだ」
亜紋はギュッと樹莉を胸に抱きしめる。
「俺が樹莉を選んだ。結婚しよう、樹莉」
「……はい、亜紋さん」
涙声で頷くと、亜紋はホッとしたような笑みを浮かべた。
「よかった。ありがとう、樹莉」
「こちらこそ。ありがとうございます、亜紋さん」
亜紋は身体を起こすとジャケットのポケットからリングケースを取り出す。
そっとケースを開けると、ダイヤモンドの指輪がキラリと輝きを放った。
「なんてきれい……」
「俺が愛するのはただ一人。樹莉だけが俺の最愛の人だ。その証を樹莉の指に」
亜紋は樹莉の左手をすくい、薬指にゆっくりと指輪をはめてから、その指にチュッと口づけた。
「亜紋さん……、ありがとう」
樹莉の頬に手を添えた亜紋は、こぼれ落ちる樹莉の涙を親指で拭う。
そのまま顔を寄せ、亜紋は樹莉の唇に優しい優しいキスをした。



