レディ・マーメイド

その夜。
樹莉はゲストルームには戻らなかった。

亜紋が樹莉を抱いたまま自分の部屋に連れて行ったからだ。

熱いシャワーを浴びながら濡れた服を脱ぎ、バスローブを羽織って……

それからどんな会話をしたのか定かではない。

ただ樹莉は、亜紋の大きな腕の温もりと、耳元でささやかれた愛の言葉だけを鮮明に覚えている。

胸がいっぱいになるほど幸せで、涙が込み上げるほど切なくて。

亜紋のことが好きで好きでたまらなくて、溶けてしまいたいほど強く抱きしめ合って。

こぼれ落ちたひと筋の涙に、亜紋が優しく口づけてくれたことも。

記憶よりも心と身体に、亜紋の愛情は深く刻み込まれた。