レディ・マーメイド

そしてパーティー当日。
亜紋は黒木の運転で、ゴールデンワールドホテル東京にやって来た。

車を降りると気持ちを引き締め、前を見据えて歩き出す。

3階のパーティー会場に入ると、すぐさま金盛の姿を探した。

まだ開会前で、ドリンクを片手にゲストと「これはこれは! ようこそお越しくださいました」と挨拶を交わしている。

気品の欠片もない無遠慮は笑い声が、離れていても耳に入った。

「須藤はいるか?」

亜紋はすぐ後ろに控えている黒木に、前を向いたまま小声で尋ねる。

「はい、後方の扉付近に。時折、金盛社長に視線を送っています」
「須藤は金盛に接触するつもりだな」
「ええ。機会をうかがっているのでしょう」
「黒木、須藤が金盛に近づくのを見逃すな。二人一緒にいるところに踏み込むぞ」
「かしこまりました」

それまではごく普通にと、亜紋はウェルカムドリンクを手に顔見知りのゲストと挨拶する。

「まあ、亜紋さんではないの。珍しいわね」

小さな旅行会社を経営する40代の女性社長が近づいて来た。

「どうなさったの? 帝王のあなたが自ら、格下のホテルのパーティーにいらっしゃるなんて」

歯に衣着せぬ言い方は昔からだが、表裏のないこの社長の性格は嫌いではない。

亜紋はうやうやしく頭を下げた。

「ご無沙汰しております。運よく都合がつきましたので、皆さまにご挨拶がてらまいりました」
「そうなのね。あなたのことだから、なにか思惑があるのかと思ったわ」

さすがの観察眼だが、気取られてはいけない。

「そのようなことはございません。皆さまにお会いできて光栄です」

金盛に怪しまれないよう、ゲストに溶け込まなくては。

亜紋は次々に声をかけてくるゲストと雑談しながら、常に金盛の動きを視界の端で追っていた。