レディ・マーメイド

樹莉が更衣室で女に問い詰められ、警察に通報してから5日が過ぎた。

捜査の詳細は、こちらにはなにも伝えられていない。

「仕方ない。警察なら進展を周囲にもらさないのは当然だ」

そう言う亜紋も、そして黒木も、あの日以来、意気消沈しているように樹莉には思えた。

「私のせいで、お二人には色々ご迷惑をおかけしてしまって……」

樹莉が頭を下げると、更に二人は辛そうな表情を浮かべた。

「謝るな、樹莉のせいなどではない。そもそも俺の最初の判断が間違っていた。樹莉がパーティーのあとに男に襲われた時点で、警察に通報すべきだったんだ」
「いえ、亜紋さんはなにも悪くありません。たとえあの時一人で逃げていたとしても、私は警察には行かなかったと思います。あれこれ訊かれるのかと思うとなんだか怖くて、そんな勇気もなかったし。それに自分のマンションに帰っても、恐怖に怯える日々が続いたはずです。仕事からの帰り道も、一人では歩けなくなって……。あの夜亜紋さんにここに連れて来てもらえたから、神谷さんと毎日楽しくおしゃべりして、黒木さんにも送迎してもらえた。私は本当に皆さんに救われました。ありがとうございます」

改めて頭を下げると、神谷が「樹莉さま……」と涙混じりに呟く。

「樹莉」

亜紋に名を呼ばれて、樹莉は顔を上げた。

「はい」
「警察は、恐らく金盛と須藤の罪は暴けない。きっとあの二人は逮捕には至らないだろう。だが樹莉を襲った犯人だけは、樹莉を怖がらせたあの男と女だけは、なんとしても罪を償ってもらう。俺はそう樹莉に誓う」
「……亜紋さん。そんな、もういいです。これ以上はなにもしないでください。でないとあなたに危険が及ぶかもしれません」
「俺が許せないんだ。そばにいながら、またしても樹莉を危険な目に遭わせてしまった」
「ですからそれは、亜紋さんのせいではありません。むしろここまで守っていただいて、本当に感謝しているんです」

樹莉がどんなにそう言っても、亜紋はもう返事をしない。

困って黒木に目をやると、同じようにその目に決意をにじませていた。

(どうすればいいんだろう。亜紋さんも、黒木さんも、これ以上自分を責めてほしくないのに)

樹莉も胸を痛めながら途方に暮れた。