レディ・マーメイド

ひと際注目を集めていた男性が、ロイヤルクレストの帝王だったとは……。

確かにこの人なら、帝王と呼ばれるのも頷ける。
そんな圧倒的なオーラと気品に満ち溢れていた。

しかもその帝王の車に乗せてもらっているのだ。

樹莉は一気に緊張感に包まれた。

改めて見ると、座り心地のよい革張りのゆったりとしたシートは、いかにも高級車。

音も静かで、走りもなめらか。
ハンドルさばきが上手いからかも。

「お抱え運転手さんとかいらっしゃるのかと思いました」
「……襲われたというのに随分落ち着いたもんだ。名前は?」
小早川(こばやかわ)と申します」
「長いな。下の名前は?」
「樹莉です」
「よし、樹莉」
「……はい?」

いきなり呼び捨てにされて面食らっていると、車は細い角を曲がって静かに止まり、エンジンとライトが消された。

シン……と車内が静まり返り、樹莉は緊張する。

「樹莉は一人暮らしか?」
「はい、そうです」
「危険だ。恋人の部屋まで送る」
「彼氏はおりません」

チラリと視線をよこされ、樹莉は頬を膨らませてうつむいた。

(どうしてそんなこと訊かれなきなゃいけないのよ!)

思わず素直に答えてしまった自分が恥ずかしい。

すると九條亜紋なる人は、バックミラーをじっと見たまま、また声をかけてきた。

「さっき後ろを通り過ぎた車、樹莉を襲った男が運転していた」

瞬間、樹莉の全身がヒヤリとする。

「そんな……どうして?」
「樹莉に心当たりがなくとも、狙われているのは確かだな。今夜は一人暮らしの部屋に帰らない方がいい。ホテルにスタッフの仮眠室はあるか?」
「はい、あります」
「ひとまずそこに」

短くそう言うと、車は『パレ・ド・フローラ』へと引き返す。

だが角を曲がってホテルが見えてくると、樹莉はハッと目を見開いた。

従業員用の出入り口にパトカーが3台、赤い回転灯を照らしながら停まっていた。