レディ・マーメイド

取り残されてポカンとする樹莉を、神谷が苦笑いしながらエステサロンへと案内する。

「ねえ、神谷さん。これって一体どういう意味なの? 汚れた身を清めて来いってこと?」

ふかふかの絨毯を踏みしめながらホテルの廊下を進み、樹莉は神谷に尋ねた。

「ふふっ。亜紋さまは樹莉さまを優しく気遣っていらっしゃるのですよ」
「今からエステに行って来い! っていうのが?」
「ええ。亜紋さまは樹莉さまをとても大切にされているのがわかります」
「今からエステに行って来い! っていうのが?」

同じセリフで訊き返すと、神谷は「そうですわ」と笑う。

「あんなに思いやりに溢れた亜紋さまは初めて」

今からエステに行って来い!っていうのが?と、樹莉は3度目のセリフを心の中で呟いた。

だがいざエステサロンでオイルマッサージをしてもらうと、樹莉は身も心も解きほぐされてうっとりした。

「はあ、気持ちいい」

よい香りで全身を包まれ、肌はつやつやと潤い、ガチガチに凝っていた肩もすっきりする。

最後にメイクを整えてもらい、イブニングドレスに着替えて髪もアップに結ってもらった。

「まあ、樹莉さま。なんてお美しい」

時間になり、迎えに来た神谷が頬に手を当てる。

「いえいえ、全てはエステティシャンの方の腕前です。さすがはロイヤルクレストですね。超一流ですよ」

そんなことを話しつつ、樹莉は神谷と部屋に戻った。