「いらっしゃいませ。お飲み物はいかがですか?」
始まった婚活パーティー。
ロビーで受付を済ませたゲストが、テーブルの番号札を見ながら席に着き、樹莉達スタッフがウェルカムドリンクを配る。
しばらくすると、緊張の面持ちで黒木も会場に入って来た。
樹莉は黒木にも声をかける。
「いらっしゃいませ。お飲み物はいかがなさいますか?」
「では、アイスコーヒーをお願いします」
「かしこまりました」
樹莉は黒木の前にコースターを置き、左手のトレイからアイスコーヒーのグラスを手に取ってコースターに載せた。
がんばれとばかりに目配せすると黒木も小さく頷き、アイスコーヒーを飲んで大きく息をつく。
時間になると司会者がマイクを持って挨拶を始めた。
「皆さま、本日は『カップリングパーティー』へようこそお越しくださいました。あなたの運命の人と巡り会う、そんなすてきな瞬間が皆さまに訪れますように」
簡単な流れの説明があり、早速1対1のトークタイムに入る。
今日は男女15人ずつの30人。
黒木が飛び入りで参加することになったが、ちょうど男性側に1人キャンセルが出ていたので人数もちょうどよくなったらしい。
向かい合った男女がお互いのプロフィールカードを見せ合いつつ、「初めまして」と挨拶して思い思いに話を始めた。
樹莉達スタッフは邪魔にならないよう壁際に控えて、その様子を見守る。
樹莉がチラリと目をやると、黒木の前にいる女性は明らかに目をハートにして頬を赤らめ、興奮気味に話をしていた。
隣に立つ静香が樹莉に小声でささやく。
「ねえ、樹莉ちゃん。あそこの男性、飛び抜けてイケメンよね。他の女性も目の前の男性より、あの人をチラチラ見てるし。あ、3分経ったのに、まだ引き留めてる」
見ると、黒木と話していた女性は「お時間ですので男性は右に1つズレてお座りください」と案内されても、黒木の腕を掴んで訴えるように声をかけていた。
「えっ、捕まえて離さないよ。いいのかな? おお、係の人に引き剥がされたね」
黒木が右隣の席に着くと、お相手の女性ははにかみながらうつむき、手で髪を整える。
初めましてと挨拶した黒木が、そのあと上手く会話をリードできなくとも関係ない。
どの女性もポッと頬を赤らめ、自分のアピールポイントを話して黒木のプロフィールを褒める。
「理想のデートや家族像が私と同じです!」
「お料理もできるなんて、完璧ですね。一緒に作りたいな」
「あなたをお守りしますなんて、もうどうしましょう」
黒木の正面にいる女性だけ、背景がピンク色に見えた。
またしても静香が樹莉にささやく。
「すごいねえ、あのイケメン。女性全員メロメロになってるよ。妊娠しちゃいそうな勢い」
妊娠!? と、樹莉は苦笑いした。
「だって女性ホルモンが大量分泌されそうだもん。でも美容効果はあるよね。お肌がツヤツヤになりそう」
「それは確かに」
「でも私、どこかであの人を見かけた気がするのよね」
えっ!と樹莉は身を固くする。
きっと2日前のパーティーで、亜紋の秘書として参加していた時だろう。
(でもあの時先輩、前方の亜紋さんに釘付けだったような……。ロイヤルクレストの帝王がいる! って)
まあ、亜紋がいなければもっと黒木は鮮明に覚えられていたかもしれない。
「気のせいじゃないですか? テレビで見かけた芸能人に似てる、とか」
樹莉がそう言うと静香も頷く。
「そうよね。実際にどこかで会ってたら絶対に覚えてるわよね、あんなイケメン」
そうですよ、と笑ってごまかす。
やがてトークタイムが終了し、食事を楽しみながらのフリータイムとなった。
樹莉はビュッフェカウンターの料理を補充したり、テーブルの上の空のお皿やカトラリーを下げて回る。
予想通り、黒木は女性に取り囲まれていた。
「ウッディーさん、お料理どうぞ。この生ハムとルッコラとモッツァレラチーズの冷製パスタ、美味しいですよ。私もよく作るんです。今度ご自宅で作らせてください」
黒木の後ろを通りながら、そんな女性の声が聞こえてきて樹莉は舌を巻く。
(すっごい勢い。黒木さん、大丈夫かな?)
そう思っていると、黒木の隣に座った女性が身を乗り出す余り、肘でテーブルの上のグラスをコツンと揺らした。
入っていたアイスティーが少しこぼれ、コースターに染みを作る。
本人は黒木に話しかけるのに必死で気づいていない。
樹莉はベストの右ポケットから新しいコースターを取り出し、薬指と小指の2本で手のひらに押し当てて持つ。
他の3本の指でグラス持ち上げると、コースターを置きながらグラスを滑らせるように載せた。
最後に汚れたコースターをスッと手の中に隠し持ち、ベストの左ポケットに入れる。
汚れたコースターを見つける度に、こうしてさり気なく交換することはよくあった。
その為樹莉は、業務中は常に新しいコースターを右ポケットに忍ばせている。
空のお皿や使った紙ナフキンをトレイに載せてバックヤードに戻り、お皿は厨房のカウンターへ、ゴミは大きなダストボックスに入れようとした時だった。
いつものように紙ナフキンはクシャッと握りつぶして中になにか紛れ込んでいないかを確認し、コースターはメモなどが書かれていないか裏面もチェックしていて、樹莉はハッとする。
(これだ!)
今すぐ黒木のもとに戻って伝えたい。
だが自分は仕事中だし、今の黒木はウッディー中だ。
(早く終わらないかな)
ヤキモキしながらパーティーの進行を見守る。
「それではシンキングタイムです。皆さま、お目当ての方の番号をカードにご記入ください」
ゲストは配られた小さなカードに番号を書き、係の人が回収ボックスを持って回った。
「皆さまご記入ありがとうございました。これからマッチングを確認いたしますので、今しばらくデザートをお楽しみください」
樹莉達スタッフは飲み物のオーダーを聞いてから、食後のシャーベットとチーズケーキを配って回る。
「どうぞ」
黒木の前にカップとお皿を置くと、黒木は樹莉を見て「ありがとう」とホッとしたように微笑んだ。
「きゃっ、ウッディーさんが笑った」
向かい側の女性陣が、頬に手を当てて見とれている。
この会場にいる女性全員が、黒木の番号を書いたであろうことは明白だった。
始まった婚活パーティー。
ロビーで受付を済ませたゲストが、テーブルの番号札を見ながら席に着き、樹莉達スタッフがウェルカムドリンクを配る。
しばらくすると、緊張の面持ちで黒木も会場に入って来た。
樹莉は黒木にも声をかける。
「いらっしゃいませ。お飲み物はいかがなさいますか?」
「では、アイスコーヒーをお願いします」
「かしこまりました」
樹莉は黒木の前にコースターを置き、左手のトレイからアイスコーヒーのグラスを手に取ってコースターに載せた。
がんばれとばかりに目配せすると黒木も小さく頷き、アイスコーヒーを飲んで大きく息をつく。
時間になると司会者がマイクを持って挨拶を始めた。
「皆さま、本日は『カップリングパーティー』へようこそお越しくださいました。あなたの運命の人と巡り会う、そんなすてきな瞬間が皆さまに訪れますように」
簡単な流れの説明があり、早速1対1のトークタイムに入る。
今日は男女15人ずつの30人。
黒木が飛び入りで参加することになったが、ちょうど男性側に1人キャンセルが出ていたので人数もちょうどよくなったらしい。
向かい合った男女がお互いのプロフィールカードを見せ合いつつ、「初めまして」と挨拶して思い思いに話を始めた。
樹莉達スタッフは邪魔にならないよう壁際に控えて、その様子を見守る。
樹莉がチラリと目をやると、黒木の前にいる女性は明らかに目をハートにして頬を赤らめ、興奮気味に話をしていた。
隣に立つ静香が樹莉に小声でささやく。
「ねえ、樹莉ちゃん。あそこの男性、飛び抜けてイケメンよね。他の女性も目の前の男性より、あの人をチラチラ見てるし。あ、3分経ったのに、まだ引き留めてる」
見ると、黒木と話していた女性は「お時間ですので男性は右に1つズレてお座りください」と案内されても、黒木の腕を掴んで訴えるように声をかけていた。
「えっ、捕まえて離さないよ。いいのかな? おお、係の人に引き剥がされたね」
黒木が右隣の席に着くと、お相手の女性ははにかみながらうつむき、手で髪を整える。
初めましてと挨拶した黒木が、そのあと上手く会話をリードできなくとも関係ない。
どの女性もポッと頬を赤らめ、自分のアピールポイントを話して黒木のプロフィールを褒める。
「理想のデートや家族像が私と同じです!」
「お料理もできるなんて、完璧ですね。一緒に作りたいな」
「あなたをお守りしますなんて、もうどうしましょう」
黒木の正面にいる女性だけ、背景がピンク色に見えた。
またしても静香が樹莉にささやく。
「すごいねえ、あのイケメン。女性全員メロメロになってるよ。妊娠しちゃいそうな勢い」
妊娠!? と、樹莉は苦笑いした。
「だって女性ホルモンが大量分泌されそうだもん。でも美容効果はあるよね。お肌がツヤツヤになりそう」
「それは確かに」
「でも私、どこかであの人を見かけた気がするのよね」
えっ!と樹莉は身を固くする。
きっと2日前のパーティーで、亜紋の秘書として参加していた時だろう。
(でもあの時先輩、前方の亜紋さんに釘付けだったような……。ロイヤルクレストの帝王がいる! って)
まあ、亜紋がいなければもっと黒木は鮮明に覚えられていたかもしれない。
「気のせいじゃないですか? テレビで見かけた芸能人に似てる、とか」
樹莉がそう言うと静香も頷く。
「そうよね。実際にどこかで会ってたら絶対に覚えてるわよね、あんなイケメン」
そうですよ、と笑ってごまかす。
やがてトークタイムが終了し、食事を楽しみながらのフリータイムとなった。
樹莉はビュッフェカウンターの料理を補充したり、テーブルの上の空のお皿やカトラリーを下げて回る。
予想通り、黒木は女性に取り囲まれていた。
「ウッディーさん、お料理どうぞ。この生ハムとルッコラとモッツァレラチーズの冷製パスタ、美味しいですよ。私もよく作るんです。今度ご自宅で作らせてください」
黒木の後ろを通りながら、そんな女性の声が聞こえてきて樹莉は舌を巻く。
(すっごい勢い。黒木さん、大丈夫かな?)
そう思っていると、黒木の隣に座った女性が身を乗り出す余り、肘でテーブルの上のグラスをコツンと揺らした。
入っていたアイスティーが少しこぼれ、コースターに染みを作る。
本人は黒木に話しかけるのに必死で気づいていない。
樹莉はベストの右ポケットから新しいコースターを取り出し、薬指と小指の2本で手のひらに押し当てて持つ。
他の3本の指でグラス持ち上げると、コースターを置きながらグラスを滑らせるように載せた。
最後に汚れたコースターをスッと手の中に隠し持ち、ベストの左ポケットに入れる。
汚れたコースターを見つける度に、こうしてさり気なく交換することはよくあった。
その為樹莉は、業務中は常に新しいコースターを右ポケットに忍ばせている。
空のお皿や使った紙ナフキンをトレイに載せてバックヤードに戻り、お皿は厨房のカウンターへ、ゴミは大きなダストボックスに入れようとした時だった。
いつものように紙ナフキンはクシャッと握りつぶして中になにか紛れ込んでいないかを確認し、コースターはメモなどが書かれていないか裏面もチェックしていて、樹莉はハッとする。
(これだ!)
今すぐ黒木のもとに戻って伝えたい。
だが自分は仕事中だし、今の黒木はウッディー中だ。
(早く終わらないかな)
ヤキモキしながらパーティーの進行を見守る。
「それではシンキングタイムです。皆さま、お目当ての方の番号をカードにご記入ください」
ゲストは配られた小さなカードに番号を書き、係の人が回収ボックスを持って回った。
「皆さまご記入ありがとうございました。これからマッチングを確認いたしますので、今しばらくデザートをお楽しみください」
樹莉達スタッフは飲み物のオーダーを聞いてから、食後のシャーベットとチーズケーキを配って回る。
「どうぞ」
黒木の前にカップとお皿を置くと、黒木は樹莉を見て「ありがとう」とホッとしたように微笑んだ。
「きゃっ、ウッディーさんが笑った」
向かい側の女性陣が、頬に手を当てて見とれている。
この会場にいる女性全員が、黒木の番号を書いたであろうことは明白だった。



