レディ・マーメイド

翌朝。
ぼんやりと目を開けた樹莉は、見慣れない天井とベッドの寝心地のよさにハッとして身を起こす。

辺りを見回すと、どこの王様のお住まい?と思うほど、ゴージャスな寝室だった。

ベッドサイドのデジタル時計を見ると、朝の7時を過ぎている。
どうやらぐっすり眠ってしまったらしい。

(そうか。昨日私、ロイヤルクレストの帝王に助けてもらって、ここにかくまってもらったんだ)

帰り道に突然男に襲われたことを思い出して、思わず両腕で自分を抱きしめる。

(怖かった。どうして私があんな目に?)

男はあの時「どこに隠した?」と言っていた。
あれはなんのことだったのだろう。

そう思っていると、ふいにチャイムの音がした。

樹莉は「はい」と返事をすると、バスローブ姿のままベッドを降り、ドアに近づいてそっとドアスコープを覗く。

ホテルの黒いスーツに身を包んだ30代くらいの女性が、にこやか立っていた。

樹莉はホッとしてドアを開ける。

「樹莉さま、おはようございます」
「あ、はい。おはようございます」
「わたくしは樹莉さま専任のコンシェルジュ、神谷(かみや)と申します。お食事をお持ちしました」
「えっ、そんな。ありがとうございます」

樹莉さまと呼ばれ、こんな待遇をされることに恐縮していると、神谷と名乗った女性はドアにストッパーをかけ「失礼いたします」と言ってワゴンを押しながら部屋に入って来た。

「こちらのダイニングテーブルに朝食をご用意してよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました」

次々と並べられたのは、きれいな形のオムレツにハッシュポテトとベーコン、焼き立てのよい香りがするクロワッサン、サラダにヨーグルトにスープにフルーツ、それからティーポットだった。

「昨夜のうちに朝食のお好みをうかがえずに申し訳ありませんでした。こちらのお食事でいかがでしょうか?」

カップに紅茶を注いでから神谷に訊かれて、樹莉はとにかく頷く。

「もちろん結構でございます。よろしいのでしょうか? 私がこんなに豪華な朝食をいただいても」
「ええ、どうぞお召し上がりください。後程、樹莉さまのお着替えもお持ちいたします。それではどうぞ、ごゆっくり」

丁寧にお辞儀をしてから、神谷は部屋を出て行った。