金木犀の奏鳴曲(ソナタ)

会話のやり取りを観ていたのか、娘が逸る声で訊ねてきた。

「ケルントナー通りのあれか……?」

「そう、11月中頃から演奏しているのよ彼」

「市庁舎前広場より人を集めているというヴァイオリン演奏が、あの若造だというのか」

「そう、凄いの。それに彼、周桜宗月のコンサートで共演して、アンコールは彼のピアノ演奏だったんだけど、観客が総立ちだったのよ」

娘の話を聞いて益々、腑に落ちなかった。

「5月のエリザベート王立国際音楽コンクール、ヴァイオリン部門には師匠の仇討をするために挑戦するんですって」

「そんな奴が何を考えたら、調律を学びたいのか」

ため息混じりに、棚からBALのピアノの調律記録を取り出した。

直近の調律は1ヶ月前だった。