金木犀の奏鳴曲(ソナタ)

「1つはBALのピアノを調律できるようになりたいんです。もう1つは……」

淀みなく答えた顔が実に清々しかった。

「BAL……コンサートホールの裏通りの」

「ええ。古いピアノです」

「あれはダメだ。手に負えない。調律を依頼されて仕方なく看るが。元は戦場跡の焼け野原で見つかったピアノだと聞いている。一筋縄ではいかない代物だ」

「でも、朽ちてはいません。まだ生きています。生きて音を奏でようとしています」

目を輝かせて、ガタガタのおんぼろピアノを「生きている」と言った。

「何を考えているのか知らないが、音大のお坊ちゃんに取得できるような生易しい仕事ではないんだ、調律師は。冷やかしなら帰ってくれ」

何処まで本気かを確かめたかった。

「ではーー」

と言って数分、考えたかと思うと何を思ったのか、不意に真剣な表情で切り出した。