金木犀の奏鳴曲(ソナタ)

1日が36時間あればいいと思う。

学業と工房、演奏活動ーー下宿先の師匠ユリウス宅に帰ると、ベッドに倒れこみ、1時間は軽く動けない。

普段から用心に用心を重ね、何事も慎重にセーブしながら行動することが染み着いている。

何でもない風を装い、感情の揺れや不安を胸の内に押し込んで、顔に出さないようにしている。

「ポーカーフェイスだな」と言われるたび、好きでやっている訳ではないと、心の内で呟く。

「君の体は君が思っている以上に脆弱だ」

主治医の言葉が耳から離れない。

「詩月、資格は必要なのか。技術だけでも調律師はできる」

BOSSからもユリウスからも言われた。

「資格がなければできないこともあるから」と答えた。

調律を習ってわかったことがある。

調律を依頼されたピアノに触れた時、どのように扱われてきたピアノかが、手に取るように解る。