ミッドナイト・サンシャイン






「そんなにラーメンが食いたかったのか?」



「美味しそうな匂いがしたら食べたくなっちゃうんですよ。あ、味噌ラーメン私のです」




運んできてくれた店員さんにお礼を言って割り箸を割ると、私は早速ラーメンを啜り始めた。



まじで本当に全然知らない人とラーメン屋に入っているのは安全面的にどうなの、と真由が言ってきそうであるが、これは私なりの自衛でもある。



ここなら、公衆の目や耳を気にして物騒なことができないからだ。



私は昨日人質に取られた時点で「関係者」。二人きりになったところで何かされないとも限らない。



だからどことも知れぬ場所でお話しするよりかはラーメン屋の方がいいだろう。



ラーメン食べれるし。あ、胡椒かけるの忘れてた。




「……まあいい。話を始めるぞ」



「どうぞ」




ぱちん、と〈花酔〉の人も割り箸を割って、まずはもやしを食べ始める――と思いきや、イケメンさんは箸に手を持ったまま目を伏せた。




「まずは、昨日巻き込む結果になったことになって悪かった」



「いえ、人質にとってきたのはあっちですし」



「それでも、一般人の関与を防ぐのは俺たち〈花酔〉の役目だ」




……やっぱりこの人、〈花酔〉のメンバーだったんだ。



流石は真由、予想が当たってたね。



それにしても綺麗な顔だ。



申し訳ないと謝罪の言葉を口にしながらしなちくを食べるその仕草も整っている。



まつげ長いし、肌も綺麗だし。暴走族の人たちってもっとこう、肌荒れしてるものだと思ってたけど。



結構健康的っていうか、むしろ規則正しい生活してるはずの私より肌整ってて焦るんだけど。



とまあ、なかなかに心の中が荒れている私の心情を知ることなく、〈花酔〉の人は話を進める。




「……それで、本題の前に。お前の名前を教えてくれ。俺は〈花酔〉に所属してる城瀬(しろせ) (みなと)



「湊さんですか。私は桜見 凜花と申します」



「凜花か、わかった。よろしく」




優しく名前を呼ばれると、チョロい女の代名詞である私は簡単に変な気分になってしまう。



だが明らかにただ名前を呼ばれただけなので動じないように気をつけながら、私は湊さんの言葉を待った。




「さて。本題だが」



「はい」




本題、ここで言っちゃっていいんか。ってことは物騒なことはしないつもりなんだろう。



それならよかった。このまま話を聞いてここで解散したいところだ。




「昨日凜花を人質にとったのは、弱小暴走族の〈ENTIRE〉。昨夜の時点で潰したが、まだ残党を消し切れたわけではない」



「はあ」



「それで、一部の残党の恨みが凜花に向かってることがわかった」



「え?」




思いもよらぬ言葉に、間抜けな声が口から躍り出た。



まさかそういう事態になっているとは思わず、箸で掴んでいたワカメがどぷんとラーメンの海に逆戻り。



いやだって、え?どうしてそんなことに?




「昨夜の件で凜花が不意をつくような行動をしてくれたおかげで、俺たちは〈ENTIRE〉を楽に潰せた。仮に凜花が『ああ』していなくとも勝てはしたが、〈ENTIRE〉の連中にとっては凜花のせいで潰されたことになっているらしい」



「そんな的外れな」



「それが、いつまでも〈ENTIRE〉が弱小だった理由なんだがな。ともかく、今凜花は〈ENTIRE〉の恨みの矢面に立たされている」




それは困った。裏社会のサンドバックになるのは御免被りたいところ。



そもそも私が足を踏まなかったら勝てたとでも思っているんだろうか。おバカの考えることはよくわからないが、完全に逆恨みというかとばっちりというか、理不尽な理由すぎる。



だけど湊さんが嘘を言っているようにも見えない。



それにそういえば、今朝学校に登校するときに一度、変なヤンキーに絡まれかけたのだった。



あのときは誰でもいいから絡みたかった的な、無差別ヤンキー活動かと思っていたが。そういえば無差別ヤンキー活動をするにしてはちょっと形相が般若すぎたような気もしてくる。



もしかしてあれはただの無差別ヤンキーではなく、元〈ENTIRE〉のヤンキーだったのかもしれない。




「この情報がわかったのはついさっきのことだ。それで凜花にどう伝えようかと悩んでいた」



「そうだったんですね。教えてくれてありがとうございます」




でもどうしよう。足踏まれてまんまと逃げ出される程度の暴走族とはいえ、逆恨みで追いかけられるのは面倒だ。



体調が悪いときとか、リュックが異様に重いときとかだったら、昨日みたいに素早く逃げられるとも限らない。



対処についてうーんと悩んでいると、湊さんはまたも口を開いた。




「そこで、提案がある」



「はい?」



「〈花酔〉に、凜花のことを守らせてくれないか」



「へ?」




間抜けな声が口から飛び出るのはこれで二回目だ。



でもだって、展開が急すぎるじゃん。体感だと「団子は空を飛びますよね」くらいの論理の飛躍してるんだけど。



「狙われちゃってるみたいですよ」「へえ、そうなんですね」で終わりじゃないの?




「それは、どういう……?」



「順を追って説明する」




曰く。



昨日私を人質にとったのは今は亡き〈ENTIRE〉だとはいえ、それを防げなかった〈花酔〉にも問題はある――というのは、さっきも聞いた話だが。



要するに、〈花酔〉としても、巻き込んでしまったお詫びをしたいらしい。



じゃあ今食べてるラーメンの料金奢りで手を打とうと言ったけど、それじゃだめなんだって。裏社会ってよくわからない。



それならどうするか、と思ったときに、〈ENTIRE〉が私を恨んでるという報告を受けたんだそうだ。



なるほど、この提案を受ければ私は〈ENTIRE〉から守ってもらえるし、〈花酔〉はお詫びができるし責任を取れる。



WIN-WINだと言われれば確かにそうだ。




「でも、いいんですか?そんなことしてもらっちゃうなんて」



「当然だ。責任は果たす」




不良?暴走族?にも律儀な人たちはいるんだなあ。



まあ裏社会にも裏社会なりのポリシーや責任問題があるんだろう。



暴走族だってお金がなきゃいろいろな設備を用意できないし、そのお金を得る後ろ盾や商談相手からの信用が、とか。



あくまで、想像だけど。




「それじゃあ、お願いしてもいいですか?」



「わかった。改めてよろしく、凜花」




こうして、私はいきなり暴走族との摩訶不思議なご縁を得ることになり。



その後、湊さんが私より一つ年上の高3だったこととか、湊さんが〈花酔〉の総長だったこととか。



わざわざ湊さん自身が護衛に当たってくれることとか、色々聞いてびっくりしまくることになったのだった。