ミッドナイト・サンシャイン








結局、数学は起きてはいられなかった。



でも眠たいのはしょうがないので、寝て欲しくないらしいあの数学の先生には睡眠欲を消す研究でもしてもらいたいものだ。



ともかく、7時間ある授業が終わり、真由と違って部活に入っていない私はそそくさと下校する。



んー、今日は特に予定もないし、宿題とか勉強とか終わったら何をしようかなあ。



そうだ、歓楽街に寄って人気のドーナツでも買ってから帰ろう。そんでおやつを食べよう。



昨日の夜にプリンをつまんだばっかりだが、その分運動すればきっと問題ない。



よし、と決意して私は歓楽街に向かうため右に曲がった。



そうして人の多い歓楽街にて、ドーナツ屋に行くためるんるん気分で走っていると。



とある噂話が耳に入ってきた。




「聞いた?昨夜の抗争!」



「聞いた聞いた!〈花酔〉が〈ENTIRE〉に勝った話でしょ!」



「〈花酔〉、そのうちこのあたり全部支配しちゃうんじゃない⁉︎」




〈花酔〉の話か。



やっぱり真由が言っていた通り、昨日のかっこよかった方は〈花酔〉だったのかな。



この街は急に発展した影響で裏社会が入り込みやすくなって云々とか聞いたことがあるけど、実際、裏社会はどんなふうに生きているんだろう。



まったく想像つかないけど、まあ関係ない世界だ。想像がつく必要もないだろう。




「ありがとうございましたー」




ココアパウダーのコーティングがされてある柔らかな甘さのドーナツを購入し、食べ歩きながら家に向かう。



あ、このあたりちょうど、昨日〈ENTIRE〉の男にナイフ突きつけられた場所だ。



普段はこんなに安全な場所なのに、夜になった途端物騒になるんだなあ、知らなかった。



今度は気をつけよう、と思いながら例の場所を通り過ぎようとした、そのとき。




「あ、すみませ……」




よそ見していたせいで、すんでのところで誰かにぶつかりそうになってしまっていた。



慌てて避けて謝罪し、顔を見上げて。あれ?となった。



相手もあれ?となっている顔だ。



うーん、見たことがある顔。っていうかとってもイケメン。すこぶるかっこいい。



綺麗な黒髪に、何もかも見通しそうな黒目。洗練された、無駄のない美にただならぬ雰囲気。



ってこの顔、昨日の〈花酔〉では?このイケメンめっちゃ覚えある。




「悪い、少しいいか」




向こう側も同時に私の正体に思い当たったらしく、足を止めて私に声をかけてきた。




「…………もぐ」




でも、今ちょっとドーナツ頬張ってるから待ってほしい。ちょっと口に入れすぎた。



一生懸命ドーナツを咀嚼しながらそれを目で訴えると、まもなく目の前の綺麗な〈花酔〉の男の人はふはっと笑った。




「食べてからでいい」



「もぐもぐもぐ…………ん、なんですか?」



「昨日、巻き込んだ一般人だな」



「ああ、はい。そうですが」



「話がある。時間はあるか」




もしかして口止めとかされちゃう感じ?もう真由に昨日のこと話しちゃったんだけど。



まあそれは「言いたいこと」とやらを聞いてみるまでわかんないか。




「んー、わかりました。でも……」




だけど、私はそれよりも、さっきから近くの店から漂ってくる美味しそうな匂いでお腹が減りまくりだ。



昨晩プリンも食べたし今ドーナツを食べ終えたところだが、お腹が空いたからガッツリ系を食べたい気分。



大丈夫大丈夫、運動すれば問題ない。



そう思い、私は〈花酔〉のイケメンさんを見上げ、近くの店を指差した。




「とりあえず、ラーメンでも食べません?」