ミッドナイト・サンシャイン






「――ってことがあってさあ」




翌日。



けろっとなんでもなかったように日常に戻った私は、昨晩の出来事を肴にしながら親友と昼食を貪っていた。



おっ、今日の唐揚げうまくできたかも。




「……あんたなんでそれでそんな平然としてんの。凜花が逆に怖いわ」



「えぇ?」




対して、親友の真由(まゆ)はドン引きの様子。



顎を引いて眉を寄せるその顔はなかなかに面白い。



そのままその顔を写真に収めようとすると、それを察知した真由はさっと元の麗しい顔に戻ってしまった。



ともあれ。




「じゃあ聞くけど、なんか別の反応あるわけ?真由だって、歓楽街のとこで声かけられても普通に断るよね?」



「人質に取られてナイフ突きつけられたのを、商店街のナンパと一緒にするなって言ってんの」




うーん、でも私を人質に取った人、あんまり大したことなかったし。



しつこいナンパとそんなに違わなかったようにも思えるのだが、これを言ったらまたドン引きされる気がするのでやめておこう。



あと、今朝またなぜか野生のヤンキーに絡まれそうだったことを報告しようとも思っていたのだが、さらに何か言われそうなのでこれもやめておこう。




「とにかく。そんなことがあったからちょっと気になって。昨日の抗争がなんていうところの暴走族さんたちだったか、真由わかる?」



「うーん……ちょっと曖昧すぎて絞り切れないかな」




流石にか。まあ裏社会の巣窟みたいなところに住んでるんだから、他にも候補があって当たり前か。



何か見た目で情報ないの、と真由に聞かれ、私は再び昨晩のことを思い出した。




「私のこと人質に取ってた人はよく見えなかったけど、戦ってた相手なら見えたよ」



「じゃあ見た目は?」



「めっっっちゃイケメンだった」



「……」




あんた、人質だったのに「やだイケメーン!」とか考えてたんじゃないでしょうね。――と、真由の視線が言っている。私にはわかる。



流石にそれはないって。観察してただけだって。ひどい誤解だ。



私は真由の視線から逃れるため、慌てて身体特徴をさらに言い募る。




「黒髪で、目も黒くて、身長は……私が160センチだから、その20センチくらい上かなあ?話し方はこう、なんか冷静な男の人って感じ!ぶっきらぼうではなかったかなあ」



「ふうん……なるほどね」




真由はしばらく考え込むような素振りを見せた。



そして少しすると顔をあげ、ピッと人差し指を立てる。




「たぶん人質男たちのお相手は、〈花酔(かすい)〉っていう暴走族ね」



「カスイ……最近なんか勢いあるって噂の?」



「そう。ってことは、凜花を人質に取ったのは〈花酔〉にケンカ売ってたらしい〈ENTIRE(エンタイア)〉かな。まあそっちはどうでもいいか、どうせ潰されたんだろうし」




そう言って真由は自分の昼食のサンドイッチを食べ終えた。



私のこと散々考え方がバグってるだの鋼鉄メンタルだの言っているが、これで動じない真由も真由だ。



でもそれはさておくとして、〈花酔〉か。まさかそんな大物と出会っていたとは。




――〈花酔〉は、最近急に勢力を増してきた暴走族だ。



彼らの大きな特徴は、総長や幹部を含むメンバーのほとんどが高校生であること。



新人で、かつ若くて経験足りなさそうなのに裏社会をどんどん上り詰めていく彼らにみんな舌を巻いている、というのは真由談だが。



そんな人たちが目の前にいたなら、サインでも書いてもらうべきだっただろうか。




「まあとにかく、これからはちゃんと用事は8時代までに済ませとくこと!」



「はあい」



「まったく。無理言って一人暮らしさせてもらってんでしょ?凜花の両親に心配かけちゃダメだよ」



「そうだよね、気をつける!」




真由の言葉に頷いて、私もその日の昼食を食べ終えた。



さて、次の授業はなんだったか。数学?うーん、睡眠時間かも。



でも寝たら怒られるし頑張るかあ、と気合を入れて、私と真由はトイレに向かった。