……と思ったのは、何分前だったかなあ。
無事にプリンと小銭をゲットして、急いで帰ろうと走っていた夜の路地。
これで一件落着と思っていたのに、明るい通りへの曲がり角を曲がった途端になぜかガラの悪い男に声をかけられ。
そのまま急になぜか腕を掴まれ、あれよあれよと人が集まっていたところに連れて行かれ。
そうして今に至るのだが。
「止まれ!動いたらこの女殺すからな!」
「WOW……」
首元にナイフを突きつけられるのと同時に聞こえた脅迫の常套句に、私の方がびっくりしてしまった。
なんとびっくり、私裏社会にはまったく関わっていないのに、抗争の人質にされてしまったようだ。
抗争の場に向かっていた応援らしい男に見つかってしまったのがいけなかった。
「……一般人を巻き込むのか?」
脅されたほうの集団のリーダーっぽい人が言う。
ってやば、相手のリーダー格のあの人めっちゃイケメンなんだけど。
首を固定され金属の冷たさを感じながら、私は呑気に相手のイケメンさに感動する。
もしかして抗争の原因はこの美貌への妬みとかなんじゃないだろうか。
……不良でもそんなことで喧嘩するほど暇じゃないか。
そして私がそんなことを考えている間に、私を捕まえているチームの男たちはイケメンの言葉を鼻で笑った。
「くだらねえ。裏社会のルールだかプライドだか知らねえが、勝った方が正義に決まってんだろ!」
でもなるほど。「裏社会」にて、関係ない一般人を巻き込むのは、一種のタブーだとは聞いたことがある。
もう私は巻き込まれてるわけから、相手チームの人たちが私をどうしようともう手遅れな気もするが、一般人を傷つける結果になったら相手のチームも痛手なのかもしれない。
だから私や、私を捕まえている男に迂闊に手を出せないのかも。
拘束されながらそう分析した私は、どうしようか、と考えながら腕時計を見た。
……うう、9時10分。
本来ならもう帰ってるはずなのに。明日も学校だし早く寝たいんだけどなあ。
でもナイフある。首が切れたら痛そうだ。
ということは不意を突くしかあるまい。
私はそう思い、私を捕まえている男の腕をちょんちょんとつついた。
「あの、すみません。私もう寝るので帰りますね」
「は?何言って――いたぁっ⁉︎」
その男が油断した隙に、私は男の足を思いっきり踏み抜いた。
へっへっへ、私の全体重をかけてやった。私のヘビーボンバーというやつだ。
そして男がびっくりしている間にナイフを弾き飛ばし、男の拘束から逃れる。
思ったより男が大したことなくて安心した。
ふふん。これが私、桜見 凜花流の護身術!
「て、めぇ!何しやがる!」
「そっちこそ、いたいけな一般人相手に何するんですか!訴えますよ!」
男の気迫に劣らないようにビシッと言いつけてから、私はくるりと踵を返してその場から逃げ出した。
裏社会はどうなのか知らないが、こちとら逃げれば勝ちだ。こういうのは退散するに限る!
「あっ!!この、待ちやがれ!!!!」
「誰が待つかバーカ!!!」
ついつい子供じみた言葉を浴びせてしまったが。
ともあれ、盗られていたプリンも取り返せたので一応目的は完遂できた。あとは逃げるだけだ。
でも、思ったよりあの男の人足は早い。
どうしよう、と慌てて解決策を考えようとした、そのとき。
「がっ⁉︎」
男のそんな声が聞こえたかと思うと、足音は聞こえなくなって。
逃げながらちらりと見えた先で、イケメンさんが、地に薙ぎ倒された男の背中を踏みつけ一瞬で倒していたのが、少しだけ見えたのだった。
その姿に、ちょっとだけ別世界を実感して。
それから、なぜか寒気めいた、ある種の興奮のようなものを覚えたことに、びっくりして。
私はイケメンさんに何を言うこともなく、その場からそのまま逃げていった。



