隣のクラスの前まで来ると、中から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
ドアは開いたままで、教室の空気がそのまま廊下まで溢れている。
私は少しだけ足を止めた。
去年までなら、こんなことで迷わなかったのに。
「……りのん?」
名前を呼ばれて顔を上げる。
教室の奥で、陽奈がこちらを見ていた。
「ほんとに来た!」
嬉しそうに笑いながら、こっちへ駆けてくる。
その瞬間、張っていたものが少しだけ緩んだ。
「迎えきたよ」
「えへへ、ありがと」
陽奈はそう言って、自然みたいに私の隣に並ぶ。
そのとき。
「ごめん鈴野、次って移動教室?」
後ろから聞こえた声に、私は振り返る。
柏木湊だった。
窓際の席に座ったまま、こちらを見ている。
「あ、私たちは移動じゃないよ!友達が移動で!」
陽奈はいつも通り明るく返す。
「なるほどな、さんきゅ」
それだけ言って、柏木くんは視線をこちらへ移した。
一瞬だけ、目が合う。
「友達って……水瀬?」
心臓が、静かに跳ねた。
どうして名前を知っているんだろう。
そんなことを考えるより先に、陽奈が笑う。
「そう!わたしの親友!」
その言葉に、胸の奥が少しだけあたたかくなる。
なのに。
なぜか、うまく息ができなかった。
「じゃ、りのん!いつものとこいこう!」
陽奈がぱっと私の方を向く。
その声に、思わず小さく笑ってしまう。
「うん」
去年と変わらないはずの約束。
その変わらない約束に胸がギュッと締め付けられた。

