陽奈はそこでやっと息を吐く。
——安心、した。 その事実に、 自分自身が一番驚いた。
どうして安心したの?
なんで、ほっとしたの?
秋の風が吹いて、木の葉がかさりと揺れる。
その音の中で、陽奈はようやく気づいてしまった。
自分が思っていたよりずっと、 柏木くんのことを目で追っていたことに。
——ああ。 これ、好きなんだ。
その言葉が、 胸の奥に静かに落ちていく。
誰かに言われたわけじゃない。 特別な瞬間があったわけでもない。
ただ、 柏木くんが他の子と並んでいるのを見た瞬間、 苦しくなって。
振られたと分かった瞬間、 安心してしまった。 その気持ちだけで、十分だった。
思わずわたしは教室に戻る足をはやめた。
陽奈は小さく息を吐く。 秋の風が髪を揺らす。
——好きになってしまったんだ。
やっと気づいたその感情は、 思っていたより静かで。
でも、一度気づいてしまったら、 もう前みたいには戻れない気がした。

